「わかった! わかったから、衛宮邸に帰ろう。譲ってあそこならば私も……」
「駄目だ。……オレは今すぐ、ここでおまえが欲しい」


そう言われたのは、完全に開けた公園で。
時刻は夜十時、中途半端に人が出歩くような時間である。隠れるところと言えばそこら辺の茂みくらいで、それ以外に遮蔽物など何もなかった。
だからアーチャーも慌てたのである。「譲って」と。
衛宮邸での行為を認めて、譲って早く帰ろうとランサーを急かした。けれどランサーは止まらずに。
「ん! んん……っ……」
突然くちづけをされて、鋼色の瞳を見開いたアーチャーが短く呻く。かぶりつくような、喰らうような。
「ん、ふ……ぅ、は、」
「待てねえ……」
唾液と呼吸の交換の間で、ランサーがつぶやく。興奮に上擦ったその声はアーチャーの腰をずん、と揺さぶって。
一気に“そちら側”へと押し流していこうと働いた。
「だ、めだ……んっ、こ、んなところ、で……」
それでもアーチャーは抗う。必死になって、ランサーの胸板へと震える手を伸ばし。
その手でもって、彼を突っ張って押し返そうとするが手は上手く動いてくれない。
震える一本が、シャツを掠めてランサーの肌へと触れる。
「――――ッ!」
その。
熱さに、びくん、と熱湯を被った子供のように手を引く。手首を掴まれた。くん、ダンスの要領で体全体を持っていかれる。
引かれる。飛び込む。抱き込まれる。
……終わった。
いや、終わっていない。
「ラン、サ……ッ」
背中から、シャツの隙間から手を突っ込まれた。それはごそごそと器用に背中から脇腹を辿っていき、腹へと辿りつき臍をからかう。薄ら寒さにぞくぞくすれば触れ合った肌と肌とで伝導するかのように熱が伝わってきた。
あまりにも急激に的確に追い上げられていくその恐怖。そうだ、それは恐怖と言ってよかった。だからアーチャーは抵抗する。嫌だ、止めろ、と。
その耳の中に、
「オレのことが本当に嫌か? 止めてほしいか、アーチャー……?」
興奮に上擦った、けれど静かな声が聞こえてきてアーチャーは思わず動きを止める。瞬きさえも止めた。
呼吸で、さえも。
「……嫌じゃ、ねえだろ?」
「あ……!」
首筋にくちづけられて、おそらく跡を残された。駄目なのに、本当に駄目なのに。こんなところで行為に及ぶなど。そんなことは絶対に駄目なのに。
それなのにどうして己はランサーを止められないのだろう、快楽に傾いてしまっているのだろうとアーチャーは自身の不逞さを責めた。
「声、出るのが恥ずかしいか?」
「そういうっ、ん……問題、では、」
「じゃあ」
また、くちづけられる。今度は随分と長い間。
「……じゃあ、オレが塞いでてやるからよ。外に、おまえの声が漏れないように」
ぷはっ、と唇を解放されて言わるはそんなこと。違う、違う、そうではなくて。
でも、そのくちづけが嬉しかった。もっとしてほしい、と思ってしまった。
「……――――」
「は……」
くちづけをされながら、体を、上半身を撫で繰り回され。感じ入った声を全部吸われて、スラックスと下着を一緒に下ろされた。
ひやりと外気。その寸前に熱い手が覆って事なきを得る。既に湿らされていた指先が奥に押し当てられて、まず一本が侵入してくる。「ん、あ、」押し殺されたアーチャーの声はランサーに飲み下される。ごくり、響く嚥下の音。「は、ふ、」吐息でさえも彼は飲み込んだ。飲み下した。
「……――――ッ」
中でぬちぬちと動く白く長い指先。
それを想像するだけで、アーチャーは達してしまいそうになる。だがランサーがそれを知れば言うだろう。笑いもせずに。真剣な顔で「まだ早い」と。「オレが入るまで、勝手にいっちまったら駄目だろう?」と。


「…………は、あ…………!」
果たしてアーチャーは満たされた。と、いうか、ランサーが満たされたのだろうか。
先に求めたのはランサーであるが、途中でアーチャーもランサーを欲しがり始めた。
けれど、そんなことはきっとどうだっていい。
太い木にアーチャーの背を押し付けて、片足を抱え上げてランサーはその体を突き上げ始める。もちろん、ちゃんときちんと上がる声も封じた。
「…………っ、…………」
鋼色の瞳が、目蓋に隠れる。ランサーはそれを惜しいな、と思い、一時的にその鋼を隠した肌色を鈍い赤色の舌でぺろりと舐めた。
すると、「ひゃっ」と素っ頓狂な声が上がったので、つい目を丸くしてしまう。
そんな声を上げてしまったアーチャーは顔を真っ赤にして、ふるふると細かく震えている。
「……あー、なんだ」
「…………!」
「悪い。悪かった、代わりにすっげえ悦くしてやるから、許せ。な?」
「そういう問題では……! ん、ん……っ!」
唇は塞がれ。
声も塞がれ。
音が漏れていることに気付かないまま、ふたりは夜の公園で交わり続けるのだった。



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