「ん……ラン……サァ……」
しなだれかかるように。
ランサーオルタの首に腕を回して、アーチャーオルタは熱っぽくささやいた。死蝋のような顔が紅潮してうっとりと染め上がっている。実に淫らだ。
一方ランサーオルタと言えば無表情を守り、アーチャーオルタのしたいようにさせているばかり。当然だ。自立心・自己精神がないのだから。
「ランサー……ッ……ん……ぅ……」
前触れも何もなく、アーチャーオルタがランサーオルタの唇を奪う。白い顔の中でやけに目立つ赤い唇。それがランサーオルタの唇を覆い、隠していく。
声を上げるのはアーチャーオルタばかり。ランサーオルタは呼吸ひとつでもアーチャーオルタに奪われたまま。
「んんっ……せっかくふたりきりになれたのだから……君と私でふたり……しよう……?」
唇を離してささやくのは睦言。その唇から糸が引かれ、ついっと地面へと落ちる。
「……それは」
「……ん?」
「それは、命令か……」
「命令だと言えば、して……くれるのかね?」
「……命令で、あれば」
オレは何でもする。
そう無表情で言い切ったランサーオルタに、アーチャーオルタは微笑んで。
「それでは、“命令”だよ、ランサー」
そう。
ささやいたのだった。
「…………」
ランサーオルタは無言のまま。
「ん……ぁんっ」
アーチャーオルタの脇腹に指を這わせ、首筋を舐める。無機質であろうともきちんと熱を持った舌。その感覚にアーチャーオルタは身悶え、善がる。
「あぁ……っ、ランサー……いいっ、そこ……弱い、んだ、」
「…………」
「っと……っ、もっと……そこ……んんっ……」
ぞくぞく来るような声で、アーチャーオルタが漏らす。だが、ランサーオルタは何の反応もしない。ただ“命令”それだけを遂行するために舌を出し、糸を引く。
首筋のくぼみを抉るように舐めて、突いて、噛んで。
血を、流す。
「んっ、んんっ、あ――――ぁ!」
びくびく、とアーチャーオルタの体が軽い絶頂に震えてランサーオルタの体を掴むように指で掻く。けれどその指は届かない。
「も、っと、」
「…………」
「もっと、こっちに、」
……来て。
懇願するように金色の瞳を潤ませてアーチャーオルタがささやけば、「…………」とランサーオルタは沈黙して。
「あっ! あぁ……っ、ん……ぅ、!」
がばりと纏う者には似合わない禁欲的なアーチャーオルタの概念武装を脱がせつつ、露わになった箇所にかぶりついた。
それによって与えられる快楽に、アーチャーオルタは声を詰まらせて反応する。きっと彼が感じているのは途方もない快楽。奈落に落ちていくような。足元が、崩れて。がらがらと。
それでもアーチャーオルタは、悦んで。
「ラン……サー……」
その名を、呼んだ。
濡れに濡れたその声で。滴り落ちるようなその声で。溶けるようなその声で。
ランサーオルタの、名を呼んだ。
「奥まで……私の奥まで、来てくれ……ランサー……んん……っ、君、が……欲しいんだっ……!」
「……奥、までとは。どの程度を指す」
「奥も奥、最奥……んっ、だよ、ランサー……。君のその楔で……はぁ……私を、貫いて……」
「…………」
擦るように。
アーチャーオルタの指が、ランサーオルタの下肢をなぞる。
まだ何の兆しも見せていないその下肢を。
高めていくには困難であろう、その下肢を。
「あぁ……まだ、だな? まだ君は昂ぶっていない……そうだろう?」
「オレは……」
「いいんだよランサー、私が高めてやるから。この指で……君が望むのならば、この舌で……な……?」
「…………」
猫の。
喉を撫でさするように、アーチャーオルタの白い指先がランサーオルタのそこをなぞる。だがランサーオルタの表情には何の変化もない。ただ、されるがままにしている。
「あぁ……ここが昂ぶって……私の中に入ってくるのを想像しただけで……私は……んんっ……」
熱い吐息を、アーチャーオルタの唇がこぼす。腐り落ちる寸前の果実のようなその甘さ。
「ランサー。くちづけを……してくれないか?」
「……それが命令ならば」
「うん」
命令だよ、とアーチャーオルタは微笑んで。
そうしてふたりは、あからさまに温度の違うくちづけを交わした。



back.