「贋作だというのに我より胸が大きいとは……許せんな」
「き、君っ!? いきなり何を……んぁんっ」
とっくりと胸部を見つめられた挙げ句にそこを両手で揉まれ、アーチャーは思わず喘ぎのようなものを上げてしまう。だって仕方ない。(肉体の)性別的に一番弱い箇所を攻撃されたのだ。それも力任せに。
「んぁは……いた、やめ、いた、い、から……っ……も、やめ……!」
豪奢な金髪の美女の手の中でアーチャーの胸部はもにもにと形を変えていく。もにもに、ぐにぐに、ふにふに。
奇妙な擬音がきっと似合うだろうそのマシュマロのような感触に金髪の美女は赤いルージュを引いた口元を歪め、愉しそうに嗤っている。くすくすと喉の奥で、肉食獣のように。
「だがしかし許してやろう。この胸部、なかなか触り心地がいい。それに愉しいではないか。その快楽に耐える顔……見物であるぞ? フェイカー」
「や――――」
「もうやめてやれ、ギルガメッシュ」
金髪の美女……ギルガメッシュはその声に背後を振り返る。するとそこには美しくはあるが陰鬱な表情をしたシスターひとり。その名を、言峰綺礼という。
ギルガメッシュは遊びを途中で中断させられたことによる不満からか、美しい顔を冷たい怒りに歪ませて言峰を睨む。その間もアーチャーの胸から手は離さない。もにもに、ぐにぐに、ふにふに、と手遊びにしては過激なそれを続けている。
「そんなことならば男にでも出来る。もっと私たち女がやって愉しいことが――――あるはずだろう? 思考しろ」
「女がやって愉しいこと、だと?」
もに、とアーチャーの胸部を嬲る手が止まった。マシュマロホイップバストは強く掴まれたせいで潰れたような形になっていて痛々しい。
「や、め、」と弱々しく言ってはいるが、女王の耳には届いていないようだった。
やがて。
ぴこーん!
「そうか!」
だん!と教会、長椅子の上に女王ギルガメッシュが足を乗せる。うっそりと、陰鬱な笑みをシスター言峰は浮かべた。ギルガメッシュの頭上に輝く、燦々としたまあるい電球(表現)を眺めやりながら。
「着せ替えか! 着せ替えだな!? 綺礼よ! 幸い我のバビロンには千夜一夜使い倒しても足りぬほどの服の貯蔵がある! それを使ってフェイカーを、着せ替え人形としてしまえと、おまえはそう言いたいのだな!?」
「…………」
「よし! そうともなれば、」
未だアーチャーの胸を掴んでいた手を片方だけ外し、ぱちん、と指を鳴らしたギルガメッシュ。するとアーチャーの四肢は縛され、ちょうどギルガメッシュたちへと捧げられるような形になる。
「こ……こらっ! 一体何をするんだ……っ、ギルガメッシュ……っ」
「何を、だと? はっ! 白々しい! 貴様も聞いていたであろう、これから貴様を我らの着せ替え人形とするのよ! なぁ綺礼?」
「……そうだな」
「なっ」
それを聞いて俄かに慌てだし、ガチャガチャと鎖を鳴らして暴れだすアーチャーであるが抜け出すことなど出来ようもない。まずは、と、いった風に女王ギルガメッシュの白い指先が花の形をした飾り紐へと伸ばされた。
「やめ……っ」
「ふふ」
くるり、と。
白い指が飾り紐を絡め取って、次の瞬間――――一気に、間近の布ごと引き裂いた。
「――――な、あ、」
「これはまた、随分とか細い」
守りもあったものだ、と女王は言い、指に纏わりつく紐を布ごと床へと打ち捨てた。そうやっておいて今度は体にフィットした鎧へと手を伸ばす。んふふん、と、まるで年嵩の壮年男性のように。いやらしい、下種な男のようでいてそれなのに優美に。
そんな感じに矛盾して、ギルガメッシュは再び手を伸ばす。
ぞわり。アーチャーの背筋は震え上がってゴーゴー。まさか。まさか本当にやるのか?鎖プレイ込みの“お着替え”とやらを?アーチャーをさながらお人形さん扱いして言峰綺礼とふたりがかりで。
やだ!それだけはやだ、やだやだやだやだいやだ!やめてくれ、助けてくれ凛!
頼りになるマスター・遠坂凛に念話で助けを求めてはみるもののここに拉致された時に首に怪しい首輪を嵌められ、どうやらそれで念話を封じられたようだ。
凛の少年らしいボーイソプラノはアーチャーの脳内に聞こえては来ず、ただ愉しげな女王の嗤いが響くばかり。
「綺礼」
不意にギルガメッシュがアーチャーの腹の辺りを撫で回しながら、背後へと声をかける。
アーチャーが顔を上げればそこには獰猛な獣のようなギルガメッシュの表情。赤いルージュを引いた唇をぺろり、と、もっと赤い舌で舐めて、ギルガメッシュは誘う。
背後で腕組みをするでもなくただ立っている、シスター・言峰の名を執拗に。
どうやらこの教会組、連携意識が強いらしい。一方的かもしれないけれど。
「貴様も参加せぬのか? こやつ、なかなか面白い反応をするぞ。……おお、そうだ、“デジカメ”を持て。あれで余さずこやつの痴態を映し取ってくれよう」
「なっ」
尻尾を踏まれた雌猫のような声を上げてしまったアーチャーに、ぎらりと輝くルージュよりも宝石よりも深く赤いギルガメッシュの赤眼。
えっちなですか?えっちなビデオに出演なんです?そもそもサーヴァントはカメラに映るんです?
混乱をきたしてきたアーチャーの耳に、ひっそりとうっそりとしたシスター言峰の声が届く。それは救いの声かと思いきや。
「……そうだな、それもなかなか愉しそうだ。というか愉悦万歳。デジカメはないが、父上の使ってきた年季入りの逸品がある。相当古いが、きちんと手入れはしてきたつもりだ。まだまだ使えるぞ? 今ランサーに持って来させよう、しばらく待っていろ。そうだ、奴も参加させるか?」
「な、な、ななななっ」
あの気風のいい女性、ランサーでさえも巻き込むというのか!このクズめ!ダニめ!シスターの風上にも置けぬ奴だ!
「よし、持って来させよ! その間、我はフェイカーの二の腕の感触でも愉しんでいるとしよう。ふむ……知っているか綺礼? 二の腕というのはな、乳房の柔らかさとほぼ同じだそうだぞ?」
「ほうほう」
扉の方へと向かいかけたシスター言峰はその言葉に取って返してきて、露わになったアーチャーの二の腕をもみ、もみ、と揉んだ。二度揉んだ。そして。
「これが貴様の胸の柔らかさということか。なかなかの感触だぞ? アーチャー」
何なら誇っても良いくらいだ、と能面のままで彼女が言うから。
プッツン来ちまってぶるぶると震えてゴーゴーしようとして、けれど出来ないアーチャーは。
「がうっ!」
「おっと」
がうっがうっがうっ、と、まるで噛み付き専用マシーンと化して。
ギルガメッシュをぽかんとさせた後、
「ははは、これはいい! 傑作だ綺礼、早く貴様の父親とやらのカメラを持て!」
大いに彼女を愉しませ、自らを知らずまた追い込んでいったのだった。



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