「ん……ふ、は、」
唇を合わせる。
その隙間から唾液を注ぎ込まれた。
熱い、とろりとした。
それを喉を鳴らし飲み込む。
貪欲な自分。
貪欲すぎて欲しがりすぎるこの体に嫌気が差す。
こんな体でなければ、抱えた想いも遂げられたかもしれなかったのに。
でも、もう何もかもが遅かった。
「おい、ぼうっとすんな。……大丈夫か?」
「……ん、大丈夫、だ……」
そうか、と相手は複雑そうに言って、また唇を合わせてくる。
くちづけ、ではなく魔力を、唾液を注ぎ込んでくるだけの行為。きっとこの後は体を合わせる。
深く、深く。
繋がらなくては意味がない。
だから繋がる。
感情も何もない繋がりなんて、本当は虚しいだけだけど。


――――おい、おまえ。
――――……消えそうになってるじゃねえか、どうしたんだ。


存在、出来ないから。


――――魔力が……ないのか?


ああ、この身が憎い。魔力喰らいの、精喰らいの、魂喰らいのこの身が憎い。
上質の魔力を目の前に差し出されれば求めてしまう。呑まれてしまう、この意識が憎い。
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い!
目的がなければこんな体引き裂いている。己の手で、引き裂いているところだ。
けれど今は消えるわけにはいかない。そんな理由で求める。
目の前の、男の魔力を。
「ふ……ぅ、ん……っ……」
また、唾液を注がれた。
魔力に満ち満ちたそれは、ひどく甘くて視界がくらくらとした。
嫌なのに。
こんな形で、彼と肌を合わせたくなんてなかった。
もっと違う理由が欲しかった。
もっとちゃんとした理由が欲しかった。
喰らうだけなんて。そんな即物的なものはいらなかった。
まるで獣だ。
飢えた獣。相手は上質の餌。
そうだ、餌だ。自分は餌を前にぶら下げられて、涎を垂らしてそれを見上げている。
それが自分の下へ落ちてくるのを待っている。
だらだらと涎を垂らして。汚らしく濡れて。
かろうじて覚えているおあずけをしながら、餌をもらえるのを待っている。


本当に、消えられるものならば消えてしまいたい。
だけど出来ない。
自分には、やることがあるから。


「……っ、は、ぁ……っ……」
相手の白い手がうなじをなぞっていく。淡い快楽に鳥肌が立った。
愛撫なんていらない。心を伴わない愛撫なんて必要ない。
だって、ないから。
通い合うものなんて相手と自分の間にはないから。
一方的に、自分が相手を求めている、ただそれだけ。
どうして相手はこんなことをするんだろう。
敵同士なのに。
放っておけばひとりが脱落するのに。
どうして助けてくれたりなんて。
助けてくれたりなんてしたから、心が折れた。
体は助かるけれど、心はきっと折れたまま。
こんな形で繋がりたくなんてなかった。
「ん……っ……」
自分の声が、ひどく耳障りでうるさかった。



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