「コンラ、コンラ、コンラ、コンラ、オレのコンラ、オレたちのコンラ、」
「ちょっと待てランサー。オレたちのとは何だ」
あと街中で歌うな恥ずかしい。
赤面しながら言うエミヤに、ん?なんで?と振り返るランサー。その手は造魔であるコンラの手を握っている。商店街なのに。街中なのに出しっぱなし。
「いくら消費マグネタイトがゼロだからと言っても……」
あちらこちらでひょいひょい出しすぎだろう、とつぶやくエミヤに「えーわけわかんない」という顔のランサーである。
「だってコンラは、大事なオレたちの子のようなもんじゃねえか。仲魔だって本当は出しておきたいけどよ? おまえがマグネタイトの無駄な消費は控えろって言うし」
「バッ……」
カではないのか!
さらに真っ赤になって叫ぶエミヤにさらに不思議そうなランサー。首を傾げれば青い髪がさらりと肩を流れる。
「当たり前だ! 効率とコストを考えろ! 大体だな、戦いの場でもないのにそうひょいひょいと仲魔やコンラを出してどうする!? 無駄だろうが!」
「えー。無駄じゃねえよ」
「無駄だッッッ!」
繰り出されたストレートパンチをカンストするくらい鍛えられた「速」で避けるランサー。ちなみにエミヤのこぶしにはメリケンサックである。物騒なことこの上ない。
さすが武闘派巫女である。
はー、はー、はー、と息も荒くつくエミヤの服の裾を、くいくいと何かが引いた。
「何だ!?」
くわっと鬼の形相で見下ろしてみればそこには、虚心と言われるはずのコンラの大きな瞳。
『…………』
「あ…………」
大きな瞳の静かなまなざしに、エミヤの昂ぶりと怒りが静まっていく。うん、と一度軽く頷いて、エミヤはコンラと視線を合わせるべくそっとしゃがみ込んだ。
「君に免じて、ランサーを許してやろう。……鉄拳一発で」
「おいおいオレは結局一発は殴られるのかよ」
「うるさいだまれじぶんのしたことをじっくりとかんがえろ」
早口で責めるように言ったエミヤの服の裾を、なおもコンラはくいくいと引く。……あ、とエミヤはコンラに視線を向けて、その異形の頭をくりくりと撫でた。
「いい子だな。君は」
かつての“コンラ”もそうだったのかな――――。
「あー、いーなー。エミヤエミヤ、オレもいい子いい子って」
「年甲斐を考えろというか何故私がよりにもよって君の頭を撫でないといけないのかねというかそもそも混乱の発端は君の軽々しい行動でありコンラのおかげでその罰が大幅に軽減されたことについて君はコンラに多大なる感謝を向けるべきだ」
「……悪りい、言ってること半分も聞き取れなかったんだが」
「制裁ッ!」
ごいん、といい音がしてランサーは道に沈んだ。
それをどこか焦ったようにゆさゆさと揺らすコンラにエミヤは「放っておけッ!」と声を飛ばし、ぷいと赤い顔でそっぽを向く。
「そんな駄目サマナー、構う必要はない。行くぞコンラ。先に事務所に帰ろう」
『…………』
じっ。
大きな瞳で見上げてくるコンラに、エミヤは「う」と思わず後ずさる。純粋な瞳。それが修行不足の身には辛い。
「そ、んな目で見ないでくれたまえ……」
『……ゴシュジンサマノイウコト、キク。コンラ、ソノタメニウマレタ』
「! コンラ、君、口が……!」
利けるのか、と驚きの声を上げたエミヤの前でむっくりとランサーが立ち上がる。シリアスな表情だが、その頭にはでかいコブ。
「ああ、利けるぜ。最近からな。成長したってことだろこいつも」
「……その想像主である君はまったく成長していないが」
「あ? 何か言ったか?」
都合の悪いところはスルーか。それとも本当に聞こえていないのか。
とにかくランサーは立ち上がってぱんぱんと埃を払うと、コブを抑えてぺたん、と引っ込ませた。器用な。
「コンラは喋れる。オレたちと同じだ。意思を持ってきてるし、もうただのお人形さんじゃねえんだよ。だから、……“オレとおまえのコンラ”」
「なっ、だからっ、それはっ」
やめろと言っているだろうが!
エミヤは叫ぶがランサーは至って真面目だ。コンラを自分とエミヤの間のかすがいだと信じ込んでいる。いや、それは真実。
「な、認めろよエミヤ。コンラはオレたちの絆だ。絆が産んだ存在だ。例え心を持たねえ人形でもこうやって成長することは出来る。だから」
「……だから?」
「だからおまえも、自分がお仕着せの何かだなんて思う必要はないんだ」
「!」
巫女の血筋。
幼い頃から、葛葉一族に仕えるべく修行して、そのためだけに生きてきた。
だから自分の意思なんて関係なくて。
……コンラと同じ、意思なんていらない存在だと、持たない存在だと、ずっとずっと思っていて。
なのに。
「……君は」
なのに、この男は、何で。
「君は馬鹿、だな」
「え、何でだよ」
ここは惚れて「ランサー!」って胸に飛び込んでくるところだろうよ、と騒ぐランサーの頭を平手で叩いて。
きっと初めて、エミヤは心からの笑みをランサーに向かって浮かべてみせたのだった。



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