もう、何日になったか。
もう、何度になったか。
それを数える気にもならなければ、聞く気にもならない。
相手は狂犬だ。狂った狗。頭の螺子が一本二本三本どころではなくぶっ飛んだ化け物なのだから。
「ぁ――――ぁ! は、ぁ……!」
どくん、と内で弾ける熱。
でも腹の中に収めておく隙間などもうない。どこにもない。
精を魔力として吸収するこの身だけれど、ここまで絶え間なく注がれ続ければそれは溢れるだろう。
現実問題、敷布はこぼれだした白濁でぐしゃぐしゃだった。
相手は狂った者だから、ろくに会話も交わしていない。日頃の相手はよく喋り、笑うタイプだったからその落差はとても激しかったけれど、だからといってどうなるものでもない。
今、自分に出来ることと言えば耐えるくらいしかなかった。きゅううう、と引き絞ってしまう、中に突き込まれたままの相手自身の形も熱も質量もみんなみんな覚えていた。覚えさせられた。いやになるくらいぜんぶ。
たまらない。もう何度放たれただろう。もう何度突き込まれただろう。
そんなこと、考えるだけ無駄。犯されるだけの存在の自分には何もかもが無駄なのだ。
それにしたって、たまには他の場所に出せばいいのに。どうしてこんなにも自分の内に出すことに拘るのだろう、この男は。
思って、聞いてもどうにもならないと思う。相手は言葉さえ失っている。
理性なんて一日目できっととっくに捨てていた。だから無駄。
「ん、んんっ」
放ったはずの相手自身がまた、内側で動き出す。数日前までは泣いていた。やめてくれと。
もう嫌だと、助けてくれと、相手に向かって叫んでいた。
でも、そんなの無駄だと悟った。それがいつだったかは、全然わからないけれど。
ふと、悟ったのだ。ああ、駄目だなと。彼にはどんなに叫んでも、泣いても、喚いても無駄なのだ。だとしたら黙しよう。なるべく耐え、相手の瞳に理性の光が再び灯るのを待とう。
それがいつになるか、は。
わからないことだけれど。
それは数ヶ月先のことかもしれないし、たった今かもしれないのだから。
「ん、ん――――は!」
とことん突き入れられて、相手のかたちになってしまった内がうねる。こんな状況でも体は順応しようとするから健気だ。
笑えでもすれば楽だったのだろうけど、生憎とそんな余裕はなかった。
「あ、ぁ……う、ん、っ! ぃ、つ……っ……」
外された関節。
より犯しやすいように変えられた体。
それはもはや自分のものではない。
敷布と同じくぐしゃぐしゃにされたそれは、相手のものだ。
生殺与奪、全てを、みんなをみんな、相手が握っている。
心臓をその白い手に握り込まれている。
このままではもしかして孕んでしまうかもしれないな。
なんて。
そんなたわけたことを、数瞬の間だけでも考えた。
「あ……つ、ぃ……っ……」
素直に口は感想を漏らす。あつい。熱い。腹の奥が溶鉱炉のようだ。
何度も何度も熱は放たれた。何度も何度も自分は叫んだ。泣いた。喚いた。許してくれ許してくれと乞うた。一体どうしてしまったのだと相手の身を案じた。
けれどそれが無駄だと知った。すとん、と諦めがついて、そこからはただ喘ぐだけのかたちと化した。
それだけ。
たぶん、きっと気が狂ってしまっていたんだと思う。相手の狂気に染められた。放たれるものを受け止める度に、染め上げられていったのだろう。
だからこんなに色々と考えていられる。最初の頃は酷かった。
どうして。何故。君がこんなことを。やめてくれ。お願いだ。頼むから。こんなことはやめてくれ。どうして。どうして。どうして。
繰り返し、繰り返し叫んだ。やがて口はただ喘ぎだけを発する器官となった。


奥は、ただ男だけを受け入れる器官と化した。


「は、ぅ、…………っ、あ、ん……!」
また放たれる。奥の方へと。
少しばかりは届いたけれど、結局は先程の繰り返しとなって溢れ、敷布に流れた。
無駄な行為。無駄な時間。無駄な。
無駄。
無駄を数えるのも、無駄だと知れた。
「…………、は…………」
やはり抜かれることはなく、入れられたままの相手自身。
すぐに硬度を取り戻して、自分を貫き始めるのだろう。
もう泣かない。生理的に涙は溢れるけれど、感情的なものが自分の奥底からは沸きあがってこなかった。
涙で滲んだ視界に、ゆらり、ゆらりと。
青くて長い髪をした男が、かつて憧れた赤い瞳でこちらを見つめてきているのがわかった。
ついさっきまでの理性を待つ気は、もう自分の中から消えていた。


それが少しだけ、
それが少しだけ、侘しいな、と思った。



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