「り、凛……その……」
「あら何? どうしたのアーチャー?」
クッキーを齧りつつ、不思議そうな顔で問うた凛に次の瞬間、爆弾が叩き落された。
「……しまった」
「は?」
「できて、しまった」
「――――は?」
ぽろりと落ちるクッキーのカス。常に余裕を持って優雅たれ。それが彼女の家訓だったが。
「ちょっと出てきなさいよこの万年発情クソ駄犬――――ッ!!」
「いきなり来訪するなりなんてこと言いやがりますかね嬢ちゃん!?」
「あら、楽しそうな気配」
にこにこ笑顔で歩み寄ってくるカレンさんをしっしと追い払い、万年発情クソ駄犬ことランサーはずり落ちかけた長椅子に座り直す。
ぜえはあぜえはあと荒い息を継いで肩を上下させている凛は、はっきり言って剣呑この上なかった。
しかも脇にちまアーチャー(ショタ)を抱えているのである。
「あ。まだ治ってねえんだ、アーチャー」
「あんたんとこのマスターが原因でしょお!?」
それに今はそんなのが問題じゃないのよ、と床をダンダン踏み鳴らす凛に、ランサーはちょっと引いて。
その前にずいっと突き出されるちまアーチャー。何となく顔が赤い。目をやたらぱちぱちさせ視線を逸らしている。
え。え?
「あんたが……」
「ちょっと待て」
「あんたがわたしのアーチャー孕ませたんでしょう、この駄犬!!」
「待てって言っただろうがよおおお嬢ちゃんよおおお!?」
待たなかった。
「膨らんでねえじゃん」
「まだ初期だからでしょ」
「そもそもサーヴァントが孕むんですかあ」
「やり逃げした挙げ句孕ませ逃げしようっての、サイッテー!」
だん!
「いってええええ!」
凛に足を踏まれて叫ぶアイルランドの光の御子。その間でちまいアーチャーが頭上をきょろきょろしている。おどおどと言ってもいいかもしれない。
「そもそも今のアーチャーがどっちもありな体だってわかってたはずじゃない! なのにあんたは!」
「いや、だから!」
「言い訳っ、不可!」
だん!
ランサーの悲鳴に、ちまいアーチャーが慌てて凛の目の前でジャンプをした。
「凛、凛!」
「はあ、はあ……ん? どうしたのよ、アーチャー」
「違うんだ」
「違う?」
翡翠色の瞳がきょとん、として。
「まさかこの駄犬以外にもあんたにふしだらなことをする奴が!?」
「アーチャー!?」
あかいあくまとあおいもうけんに迫られて、引くちまアーチャーだったが。
「い、いや、そういうわけでは、なくて……」
もじもじ。
「そういうことをしたのは、その、ランサーだけと、いうか……」
「滅殺」
「一夫多妻去勢拳!?」
嬢ちゃんそれもうゲーム違いますよねえ!?と回避行動を取るランサーに当てて参る!な凛。
「わたしもあんたもアーチャーもあっちには出てるじゃない!」
「凛! 凛!」
ぴょんぴょこ跳ね回るアーチャーが言ったことには。
「その……できたにはできたんだが、そっちが、原因、では、なくて」
「そっち?」
「?」
あかいあくまとあおいもうけんのクエスチョンマーク。ちまアーチャーは指をもじもじ絡めあわせながら、
「その、そこの彼女の……」
実験体というか。
「…………」
ハモる沈黙。
その後で、一斉に「簡単に体を許したらめっ、でしょ!」攻撃を受けたちまアーチャー(中味は成人)だった。カレンはまさに愉悦といった笑顔だった。グッドスマイル!
back.