私には大切なひとがいる。
彼は私よりずっとずうっと年下で。小さくて、少女のようで、可愛らしくて。
……女、である私よりも、もっとずっとずうっと可愛らしくて、なのに颯爽としていて。格好よくて。
だから私は恋をした。彼に、――――セタンタに。
赤い瞳に青い髪の、私の愛しい人よ。
私の大切な、大事な人。だから、セタンタ。
君に私の、全てをあげたい。


「エミヤ?」
不思議そうに私を見るセタンタ。私はいけないことをしようとしている。こんなに純粋で尊い彼を、計算づくで辱めようとしているのだ。
いやらしいことをして。
誘って。
私に触れて、とその丸い指先を手に取って。上着をまくり上げ、膨らんだ胸を保護するブラジャーに包まれた胸元に触れさせる。そうやって言う。
“早く、私をめちゃくちゃにして”と。
きょとんとした目、赤い瞳、ああ、なんて愛らしいのだろうか。やはり止めておくべきか。こんな天使のような彼を。
肉欲と名付けられた感情に似たそれで彼をめちゃくちゃにしてはいけないのでは、いや、いけないのだ。やはり、止め――――。
「エミヤ」
「セタ……ん!?」
小さな手が、間違いではなければ。
私の胸を自分から揉んで、私に嬌声を上げさせた。白く、爪もきちんと切られた、うつくしい指先。それが。
それが、いま、わたしにふれて、いる――――。
「セ、タンタ、」
「やらかい」
言って、セタンタは私の胸の谷間に顔を埋めてくる。「ひゃっ、」と素っ頓狂な私の声。だって、だってだって。
「いい、におい」
甘い、とろっとした蜂蜜のような声。だから突き放せない。突き飛ばせない。
くん、と鳴った鼻、ぺろっと生地の上から肌を舐め上げる。
「エミヤ」
おいしそう。
幼い声が、そんなことを言った。
「だいすき」
くすっと笑う声。それは絶対的に私を煽る。
「セタ――――ンタ」
「ん?」
「欲しい……か?」
「何が?」
意地悪。
知っている、くせに。聞いている私も欲しがっているだなんて、それも知っているくせに。ずるい。けれど嫌いになれない。
好きだから。
どうしたって好きだから。
「私、が」
欲しいか、と尋ねた声に。
「うん」
天使は、そう返してきた。


「ぅ……ん、ぁん、せた、んたぁ……」
ちゅっ、ちゅっ、と音が鳴る。
恥ずかしいけれど、セタンタの立てる音だから。
それだから怖くもないし、それは少しくらいは恥ずかしいけれど、それよりも満たされているといった感じが大きい。
「エミヤ、やっぱり、いいにおいするな」
「ん、あぁっ!」
びくん、と背筋が反って、戦慄いてしまう。その隙に、ちゅっ、ちゅっ、ちゅうぅ、と。
「ん、んんふ、」
「きもちい、か、エミヤ?」
「…………ッ」
目を閉じて、必死にこくこく頷く。
すると、
「そっか」
あまりにも嬉しそうな声に目を開けてしまった。そうすればそこには。
「――――!」
小さくて、細くて、可愛らしかったセタンタ、の、雄の顔。
愕然としている私に、セタンタは笑いかけて。
「エミヤ。だいすきだ、エミヤ」


私を絶句、させたのだった。



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