唇が呪文を紡ぐ。
「――――、アーチャー、今だ!」
途端に足を氷の蔦で囚われたターゲットに、白髪の男が斬りかかる。
ぞっとするような太刀筋だった。
切り裂いたのは頚動脈。血が飛び散って褐色の顔を汚す、かと思いきや。
「……助かった」
半透明の盾が男の前に現れ、濁った血からその身を守っていた。びちゃびちゃと盾は汚れて――――ふっ、と役目を終えたというかのように消えていく。
「おまえの顔、汚すわけには行かねえからな」
ローブ姿の青い髪を長く伸ばした男は、きゅっと何かを捻るように白い手を動かす。そうすれば蔦は消え、ターゲットは重い音を立てて地面に倒れ伏していた。
「それにしてもうっとりするような殺し様だな。……さて、どこを持っていく?」
「どこでも大丈夫だろう。このような特徴的なターゲットはそういない。……そうだな。持ち運びが便利な手首辺りにしようか」
「なら、血抜きでもしておくか。袋に包んでもぼたぼた血が滴るようじゃ物騒でたまらねえ」
剣士、アーチャー。
魔術師、ランサー。
彼らはタッグを組み、森や湖に割っていって現れるターゲット、魔物たちを狩る言わば賞金稼ぎだった。
双剣によってターゲットを狩るアーチャー、それを魔術……ルーンによってサポートするランサー。
彼らはまるでぴったりと癒着したように仲が良かった。
町の娘たちが「あのタッグは怪しい」と噂するほどに。
アーチャーはそれを聞いて恥じて、ランサーは誇らしげに笑う。
だって、それは本当のことだから。
「何も恥じることねえのによお、アーチャー」
「恥じるに決まっているだろう! ……あんな、噂、」
かああ。
「お?」
褐色の顔が、まずは耳から赤くなっていく。
「おお?」
その顔を、ランサーはくるりと回り込むように覗き込んだ。
「恥じるって、何が」
「……怪しいなどと。恋仲、などと」
「だって、そうだろ」
本当のことだ、とあっけらかんと返すランサーに、ばっとアーチャーは顔を上げて。
そのまま、唇を奪われた。
「――――ッ、」
「っと」
魔術師のくせに体術にも長けている。
それがランサーで、素早く繰り出される一撃も軽々避けてしまう。
アーチャーは歯噛みして、ぎりぎりと奥歯から音を立てた。
「は、破廉恥な……!」
「おいおい、町娘だって今時もっと開けてるぜ。誰かと恋仲だなんて噂されてもあっさり認めるかきっぱり切り捨てるかする」
しかも、くちづけだけで。
「そんな、真っ赤になる娘もいない」
「私は男だ!」
「うん、そうだな」
「だ、から」
「うん?」
「…………」
「っと」
無言で繰り出された一撃を、またもや避けてしまうランサー。アーチャーはさらに歯噛みした。
「卑怯だぞランサー!」
「おまえは」
オレを。
「好いていないのか?」
「…………!」
真顔で、そんな、ことを。
言われたアーチャーは固まってしまう。
「おーい? ……おーい」
手を顔の前でひらひら。アーチャーからの反応はない。
「そんな、無防備だと」
また、しちまうぞ?
「!」
びゅんっ!
「危ねっ」
言葉とは裏腹にけらけら笑いながら、ランサーは剣の流れから逃げ出した。全く素早い。風のような身のこなしだ。
赤い瞳がアーチャーの体を舐めて。
「さあ、早く始末しちまおうぜ。そんでさっさと町に戻って賞金を頂きだ」
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