「ふふ……優しく愛してあげましょう……」
「ちょっと待てっ! 何かこのパターン前にもあった気がするぞっ!?」
そして君の髪は相変わらず異生物だな!と叫ぶアーチャー(女体)の体にするするすると巻き付くライダーさんの紫の長い髪。
さながら触手である、まったくもって主従でけしからん。
「さあ、そのしなやかな首筋をわたしに差し出して……共に快楽の海で溺れましょう。怖がることはありませんよ、わたしがリードしてあげます」
「だからっ! それがっ! 怖いと言うのだよっ! ああもう誰でもいいから助けてくれ……!」
何なら衛宮士郎でもいい、と本格的に助けを乞い始めたアーチャーの前に、颯爽と救いの風が現れた。
その名はセイバー、真名はアルトリア。正体はアーサー王でありブリテンを収めた騎士王である!
「と、いうわけであなたのピンチを救いに来ましたアーチャー! もう大丈夫ですよ、わたしが助けて差し上げます!」
「あ、うん、え? ああ……うん……」
何かセイバー変なテンションだな、とアーチャーは思ったが口にはせず、アーチャーはこくんと頷いた。
この際助けてくれるなら誰でも何でもいい!
……そんなある意味サイテーなことをアーチャーが考えているとは露知らず、セイバーはちゃきんと聖剣エクスカリバーを構えてライダーに対峙した。そして、
「速攻で行きます! エクス――――」
「待て待て待て待てっ!」
ぴた、と中途半端に振りかぶった体勢でセイバーが止まる。それを止めたアーチャーは真顔で汗を垂らし、はー、はー、はー、と心臓をどきどきさせていた。
「何故止めるのですアーチャー! 助かりたくはないのですかっ!?」
「いや、君のその宝具を食らえばライダーのみならず私まで吹っ飛ぶからな? というかこんなボロい日本家屋ひとたまりもないぞ?」
「なっ」
がーん、がーん、がーん……セイバーの背後でエコーする効果音。そのまま彼女は聖剣を取り落とし、畳にがっくりと膝をついた。
「わたしとしたことがっ……浅慮でした!」
「いや、普通気付くだろう?」
さすが猪王と呼ばれた少女。周囲には気を配れずごくごく狭い目の前の現実しか見えていない。
――――などとライダーは苛烈に言って、さらにセイバーを凹ませた。
「というか、哀れですね」
哀れとまで言いますか。ひどいやライダーさん。
SなのかMなのか、わからないお方である。M疑惑についてはホロウの上姉さま下姉さまイベントとエクリプスでね!
「はっ! そうです、アーチャーもキビシスに引きずり込んでしまえばよかったのです! そうすれば邪魔されることもなかった!」
こうなれば今からでも、とアーチャーの華奢な肩をがっと怪力スキルで掴んだライダーにアーチャーは早口で返す。
いやいやいやいやいや。
「キビシス禁止! アレは滅多に使ってはいけない代物だッ!」
「便利なのに……」
「指を咥えて上目遣いをしても駄目だッ!」
まあ、仕方ないですね。
あっさりさっぱり諦めて、ライダーさんはさてと、と再び長い髪の触手を伸ばす。
「邪魔者も退散したことですし、ゆっくりと愉しみましょうアーチャー。大丈夫ですよ、処女でも痛くはありませんから……」
「人のプライベートをッ!?」
「おや、違うのですか?」
「……ッその件についてはッ……答え……られない……ッ」
「おやおや」
楽しそうに笑うライダーさんの後ろから、不意に勇ましい声が響いた。
「ライダー!」
何事ですか?と彼女が振り返って見てみれば、未だ武装を解かぬままのセイバーさん。
ちゃきりと今度はカリバーンをライダーの白い頬すれすれに突き付け、声も重々しく言ってみせる。
「先程は不覚を取りましたが、やはりわたしの目の前での不埒な行為など許すわけには行きません。まだ続けるというのならば……あなたには今、ここで散ってもらう」
「……ほう」
くい、と眼鏡をずらしたライダーは、甘い声で誘惑するように、否、誘惑する気満々でささやいた。
「よろしければあなたも混ぜて差し上げてもいいですよ?」
「なっ」
声を上げたのはアーチャー。なんてことを!憧れの聖少女になんてことを言うのだ!
顔がかああああと赤くなり、ライダーに敷き込まれた下からぶんぶんと手を振って懸命に彼女の発言を取り消そうとする。
「セッ、セイバー! 彼女の妄言になど耳を貸してはならんぞ!? まあ、君ならば大丈夫だとは思うが……」
「その話、乗らせていただきましょう」
「……は?」
かくん、とアーチャーの肩が落ちる。
今、セイバーは何と言ったのだ?
「それでは、動きはわたしが封じます。愛撫はあなたから先に始めても良いですよ」
「それは本当ですかっ? 二言はないですねライダー?」
「な、ちょ、待っ、セイ、」
「うるさい口も塞いでしまいましょうか……」
くすくすと微笑みしゅるしゅると髪でアーチャーの唇を覆うライダー。めったやたらに艶のあるその髪に震えを感じて、びくんと背筋を仰け反らせてしまう。
その間にセイバーの手は伸びて、アーチャーの首筋に触れる。あーんとまるで食べ物にかぶりつくように口を開け、そのまま、
「!」
かぷっ、と噛み付かれあむあむと甘噛みされてアーチャーはもっと震えてしまう。そんな“彼女”を見て、「ふふ、可愛いですねアーチャー」とそろって言う、女性サーヴァントふたりの姿があったのだった。
ふたりがかりで迫られる、アーチャーの明日はどっちだ!
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