「わたしはシロウの剣ですよ?」
彼はわたしの鞘なのですから、とチビッコ王様が胸を張れば。
「それがどうした。今生では違うだろう? おまえの鞘は他にいる」
だからそっちへ行け、とチンピラじみた光の御子が返す。
とりあえず、見た目的に光の御子さんは大変おとなげなかった。


「ちょっとアーチャー、あれ、あんたが原因でしょ? だったら止めてきなさいよ」
「……私をあそこに投入したらどうなると思う?」
「……カオスね」
ごめんなさいね、と凛が詫びた。そこに士郎が注ぎ立ての緑茶が入った湯呑みを置く。
「まあ、ふたりとも立派な英雄だしさ。喧嘩なんてすぐに収まるさ。少し放っておけば……」
「小僧」
「え?」
「本当に、そう思っているのか……?」
「え……?」
深刻そうに、ひとすじの汗を流して士郎がそうつぶやいた時。
「エクス――――」
「ゲイ――――」
「うわわわわわ! ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!!」
だだだだ、と士郎が走っていき、チビッコ王様ことセイバー、チンピラじみた光の御子ことランサーの間に入る。
そうして、「ちょっと待った!」と瞳を閉じて大声でがなりたてたのだった。
「家の中で宝具使うとか禁止! もちろん外でも禁止! セイバーチラチラ見ても駄目! ランサーは脅そうとしても無駄だからなっ!」
セイバーが唇を尖らせて独特の発音で、「シロウ」と彼を呼ぶ。
「シロウ、ならばどうやって決着を付けろというのです」
「徒手空拳でか? そっちでもオレはいいけど?」
だけどそっちはリーチがな?
ニヤリ、と口元を吊り上げてランサーが笑う。あからさまな嘲笑に、セイバーが視線を険しくしてランサーを睨み付けた。
「……いいでしょう、でしたら素手で。正直負ける気がしません」
「偶然だな。オレもだ」
「待て待て待て待て、だから禁止だって言ってるだろ!? 宝具のあるなしじゃない、物騒な喧嘩を止めろって言ってるんだ!」
「喧嘩に穏便なものなどありませんよ、シロウ」
「だな。剣呑なものが喧嘩だ」
「やりますか。……クー・フーリン」
「おうよ」
来いやアーサー、といつの間にやら武装したランサーがひとさし指でくいくいと自分の方へと招くような挑発のポーズを取る。
それに露骨にむっとした顔を見せてセイバーは。
「あなたの戦いには品位がない。そんなあなたにシロウを渡すわけにはやはり行きませんね」
「何とでも言え。卑怯な手段を使うでもなし、だったら勝った方が勝者だ」
「……ふん」
鼻で笑うと、セイバーも風と共に武装する。
士郎はパニックだ。
止められない、自分ではどうやってもこのふたりは止められない。どうしよう。どうすればいいんだ。どうしたら、どうしたら、どうしたら――――。
「セイバー、ランサー」
ん?
そこに降ってきた低い声に、士郎は抱えていた頭を解放して、俯いていた顔を上げる。
そこにいたのは。
「シロウ!」
「アーチャー……!」
やれやれ、といった顔で普段着姿のアーチャーだった。
「聞いてくださいシロウ! この卑劣漢はあなたを罠に嵌めようと!」
「何が卑劣漢だ、オレはまだ何もしちゃいねえよ。それにだなアーチャー、腹黒いこと考えてるといやこのチビッコがだな」
「チビッコではない!」
「チビだろ」
「ふたりとも止めないか!」
響き渡るのは朗々とした声。
ぴたり、とそこで止まる口喧嘩。アーチャーはそんなふたりを鋼色の瞳で見据えて、
「私は争いを好まない。この喧嘩でどちらが勝ち、どちらが私にこなをかけても私は何の反応もしないしどちらのものにもならない」
「――――ッ」
ふたりの反応が足並みをそろえる。アーチャーはそこへ畳み掛けるように。
「そういうことだ。……まだやるかね?」
「……わかりました。剣を収めましょう」
「正々堂々と来いってことだろ? ……了解だ」
カオスなんかじゃないじゃないか。立派に喧嘩を止めたじゃないか。
「……? 衛宮士郎?」
「何でもない」



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