バゼットはちゃぶ台に手をついて、その身を乗り出した。
少々焦り気味だった。
「わ、わたしは、彼の勇ましいところを好ましく思います!」
アーチャーはその目の前で腕を組んで、静かに返す。
「私は彼の潔いところが好きだ」
「あっ……」
それ、次に言おうと思っていたのに。
そんな顔でバゼットが小さく声を漏らす。
「で、では、その、ええと、」
「言い出せないのなら次を譲ってもらってもいいかね? 私は彼の雄々しいところを非常に好いている」
「あ、あ、」
それも言いたかったのに、と言われてから焦るバゼット。
だからおまえはダメットなのだ!と誰かが言ったか言わないか。
「赤い瞳なども特に美しいと思うし、青い髪も魅力的だ。内面だけでもなく、外面だけでもない。私は彼の全てを好いているのだよ」
なあランサー?
「……おまえらな」
そこにいた(いたのだ)ランサーは額に手を当てて、うわ熱いんですけど、と何故だか敬語で思った。
「人が、当の本人がいる目前で惚気合戦たあ、一体どういう意味だ」
「そのままの意味だが?」
「ですが?」
「オレがおかしいみたいに言うんじゃねえよ」
だん!とちゃぶ台にこぶしを叩き付けるランサー。その白い耳がわずかに赤い。
「照れているのかね、ランサー」
「ああ、安心してくださいランサー。それにアーチャー。わたしは確かにランサーを好ましく思っていますが、その感情は恋愛感情ではない。単なる憧れ、憧憬なのです。ですから」
心配しないでくださいね? 素朴に笑って言うバゼット。ならば。ならばどうして。
「こんな茶番を始めた、バゼット」
「それは……」
言ってバゼットはもじもじとし始めた。彼女の耳もわずかに赤い。
「やはり、あなたはわたしの生涯の憧れの英雄と言いますか……そのような存在が目の前にいるのはひどく、稀なことでしょう? ですから」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「え!? 終わり!?」
「は、はあ。終わりですが」
やや引いて言うバゼット。ならば、と今度はランサーは視線をアーチャーへと向ける。
「アーチャー! おまえはどうなんだ。おまえはどうしてこんな茶番に乗った?」
「……それは」
「なぁなぁはなしだぜ。マジで答えろよ、アーチャー」
「…………それは」
間が空いて。
アーチャーは、目を閉じると胸元に手をやり、静かに口を開いた。
「君のことが好きだから。君のことを好ましいと思えば譲れなかった。彼女は恋愛感情ではないと言ったが私のものも微妙にそれと一致している。憧れ、それと思慕の感情。それが複雑に入り混じり、君という男への想いと化しているのだ」
「……つまり?」
「君の全てが好きだよ。愛してる、ということさ。ランサー」
「――――ッ」
どくん、と。
心臓が鼓動したのを確かめて、ランサーは眉と口元を歪める。
ちくしょうこいつ、なんてことを言いやがる。負けた、そうランサーは思った。
「……アーチャーの」
「ん?」
「アーチャーの勝ち。バゼット、おまえの負けだ」
「ええ!?」
愕然とした顔をするバゼット。どうしてですか!その瞳が言っている。
「アーチャーはオレを負かせて、おまえはオレを負かせないから。それだけの理由だ」
「……そ、れが」
理由ですか。
肩を落としてバゼットは言った。萎れたその声に、だがランサーは容赦をしない。
「そうだ。おまえには悪いがな」
「……いえ、把握しました。わたしは確かに彼には勝てない。わたし“で”は、彼に勝てない」
微妙に発音の違う言葉を二度繰り返して。
バゼットは、二度目笑ってみせたのだった。
ランサーもその様に微笑む。そしてアーチャーを見てみれば。
彼もまた、心安らかといった風に笑っていたのだった。



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