オレには、随分と年若い伴侶がいる。
なんてな。冗談冗談。
伴侶にするにゃ、相手がちぃと若すぎる。……十歳も差があるんならいっそ犯罪ってもんだろう?
いや。
何もしちゃいねえが。本当に。本当にだ。
そいつはある日、オレの住むアパートの隣にある家に引っ越してきた。そこは曰く付きの家で、どうやらそいつはほぼ独り暮らしの状態らしい。父親は単身赴任、母親は仕事。だから。
だから、そいつとオレは縁で繋がることになったらしい。
“ひとりか?”
家のドアを閉めていたそいつは、オレの声に振り返った。鋼色の瞳。ショートカットの銀色の髪。
褐色の肌を赤いワンピースで染めたそいつは、少し眉間に皺を寄せて、はい、とだけ答えた。
“そうかい。オレは隣のアパートに住んでる……そうだな。ランサーと呼んでくれりゃいい”
“…………”
そいつは、ぺこり、と頭を下げた。そうして、
“私は……”


「ランサー」
は、と我に返る。
「昼食が出来たぞ。ちゃぶ台の上を片付けてくれたまえ」
「はいはーいっと」
「返事は一度だ」
「はーい」
「全く……」
そいつ、アーチャーは苦笑するとオレに布巾を手渡した。そうしてまた台所へと戻っていく。それにしたっていい匂いだ。
あっと、アーチャーのことじゃなくてだな。
いや、その、アーチャーもいい匂いするけどな?今のは飯の匂いのことでな?
「む。ランサー」
「どしたー?」
「醤油がそろそろ切れる。あと洗濯用洗剤もだ」
「おー。なら、これ食ったら買い物にでも行くか」
デートだな。
何気なくからかうように言えば、アーチャーの顔がぱあっと赤くなる。

何か言ったかな、オレ。
「今日も荷物持ちをしてもらうからな、ランサー」
「おう、任せとけ」
そう言ってぱくん、とひとくちを口に運んだオレを見て、アーチャーは嬉しそうに笑ってみせた。


「大丈夫か、重くないか、ランサー」
荷物持ちをしてもらう、だなんて自分から言い出したくせにアーチャーは心配げにそう言う。大丈夫に決まってるだろうが。オレを誰だと思ってる。
「ランサー、私もやはりひとつでもいいから持たせてくれ。君にばかり負担をかけたくは……」
「…………」
あのな。
「わ、あっ!?」
「こんだけのこと出来るオレに、誰が何を言ってるんだ?」
肩に担ぐようにしてアーチャーを持ち上げたオレに、アーチャーはじたばたと足を振り回し始める。ぽかすかと叩くこぶしは本当、柔だ。
「何ならおまえ担いで、両手に荷物持って歩くことだって出来るんだからな。やられてえか」
「待て、待て、待て!」
あえてじたばたしつつ言うアーチャーの腰をぽんぽんと叩いて黙らせて、オレはアスファルトの上に置いた荷物を持ち上げる。
「ほら、よっと。余裕じゃねえか」
「こ……の、たわけ! 大たわけ! 離さんか!!」
「やだ」
「や……!?」
「おまえの重み、ちょうどいいんだ。だから黙ってオレに担がれてろ」
「――――〜ッ」
顔を覆ってしまったアーチャーにからりと笑って、オレはすたすた歩き出す。
もったいねぇな、隠すことねえのに。
オレ好みの顔――――いや、なんだ。成長したらってことだ。
オレはまだロリコンになる気はねえし。将来的にもなる気はねえし。
――――ねえぞ?
「今日の飯は何だろな、アーチャー?」
「……エビフライだ」
「マジ」
オレ、エビフライ大好き。
「アーチャー、今度は」
手を繋いで歩こうな、と言ったら肩をどん、と叩かれた。ちょっとびっくりした。



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