「とりあえずあのふたりの幸せオーラが忌々しい」
「核心から入りましたね姉さん……」
だってそうでしょう!?と凛がちゃぶ台を叩けば、すかさずセイバーが湯呑みを取り上げる。そして凛、と。
「ランサーはともかく、アーチャーは許してもいいのではないでしょうか? 彼はランサーに無理を強いられているような気もしますし」
「甘いわ、甘いわねセイバー。あいつも毒されてるのよ、ええ、アーチャーもね。ランサーに立派に染め上げられちゃったのよ……わたしのアーチャーなのに」
ぎりぎりぎぎぎ、と今度はちゃぶ台に爪を立てる凛、桜は隣ではらはらしている。
「ライダー、あなたはどう思う? あいつらったら忌々しくないかしら?」
「わたしは特に。ただアーチャーの血はひどく美味に思えます。それを独り占めしているランサーには少々思うところもありますが」
ほらね?とばかりにガッツポーズを取る凛。だって、そう彼女は続けた。
「だってランサーの奴ったら、バイト帰りに玄関でわたしのアーチャーの唇を奪ってたのよ」
「えっ……それって、キスしてたってことですか!?」
桜の顔色が桜色どころではなく赤く染まる。やだやだ、と頬に手を当てて身を捩った彼女のスカートの裾から黒いアレがピロリと出て、彼女の動きを忠実になぞった。
「おのれランサーめ!」
ガタッ!と突然勢い良くセイバーが立ち上がる。その場にいた女子全員が目を丸くして彼女を見上げれば、彼女は握ったこぶしを震わせて、
「アーチャーの作る料理はとても美味だ……そんな料理を作るアーチャーとて美味でないはずがない! そんなアーチャーを真っ先に喰らうだなんて……いくらバイト帰りで疲れているとは言え、許せることではありません!」
「あ。あー……」
そういう怒りなのね。
少々毒気が抜かれたような声で凛がそう言うが、セイバーの熱血は止まらない。
なので放っておくことにした。
「おのれランサーめ……切嗣にも迫る外道!」
「セイバーは放っておいて。イリヤ、あんたは、どう……」
きしり、と。
その場の空気が、音を立てて軋んだ。
「ふ、うふふ、」
鈴の鳴るような声が悪魔じみた笑いをこぼす。小悪魔ではない。悪魔だ。
「うふふふふ、ランサーったら。いいえ、あの駄犬ったら、許さないわ。わたしのアーチャーを……いいえ、シロウを独占しようだなんて。いい度胸してるじゃない、わかったわ、今すぐにでもバーサーカーを呼び寄せてあいつのバイト先に突撃させてやるんだから。そうして、あれをああして、これをこうして……」
「ストップ。イリヤ、わかったから。わかったからその殺気を収めなさい。あんたが真剣になると間違いなく、他にも被害が出るわ。ランサーだけでいいのよ。ランサーだけを潰せばいいの」
「リン……」
ライダーがつぶやくが凛の目から敵意は消えない。ある意味魔眼だ。
その殺気をもって、槍兵の心臓貰い受ける――――!!
「とりあえず人の目の前でいちゃつくのをやめさせたいわね」
「そうですね……たまにわたしも見ますけど、その、止めてくださいって言いにくいですよね、確かに」
「一刀両断すればいいのです! ランサーのみを! あの外道を! 鬼畜を! 胴からまっぷたつに寸断」
「いいえ、そんなんじゃ物足りないわ。ずたぼろの人形に魂を移し変えてじわじわと甚振るの。針でちくちく刺したりね、手足を一本ずつもいでいったりするの。きっと楽しいわよ、いいえ。絶対に楽しいに決まってるわ」
一気にVSじわじわと。セイバーとイリヤの意見は真っ向から対決したが、彼女たちが激突することはなかった。
だって、彼女たちにはランサーという共通の敵がいたのだから。
「わたしのシロウを……」
「わたしの弟を……」
剣&姉。今ここに、最強コンビが完成されようとしていた!
「とりあえずランサーは殺していいのよね?」
輝く笑顔で言ったのはあかいあくま、遠坂凛で、それに力強い頷きを返したのが剣&姉の最強コンビだった。
「じゃあ、亡骸はわたしが食べちゃいますね?」
姉と同じく輝く笑顔で言ったのは間桐桜、それに力強い頷きを返したのは最強コンビにプラスワンの最強トリオ。
「…………」
ライダーは無言で。
ならば、わたしは彼が殺される前にその血を根こそぎ吸っても構わないのでしょうか、などと心中で思っていましたとさ。
ランサー抹殺計画、順調に進行中。
「じゃあ、作戦を立てましょうか。誰がランサーを一番に殺すかだけど」
「わたしは最後でいいですよ、死体を食べるだけでおなかいっぱいになりますから」
にこにこ笑う桜さん。
「わたしが!」
「いいえわたしよ!」
「セイバー、イリヤ。喧嘩しない。無駄な殺気を猛らせるんならその殺気は全部ランサーに向けなさい。大丈夫よ、あいつは生き汚いから全身でその殺気を受け止めてくれるわ」
「じゃあみんなで一気にやっちゃうの?」
「それは……そうね」
セイバーが本気でエクスカリバればランサーは蒸発するだろうし。
かといってイリヤが人形に魂を移し変えればそれでおしまい。
凛は八極拳か宝石剣を使う気満々だろう。
誰がどう先行しても、結局はそれでおしまいなのだ。
さて、ランサーがバイトから帰ってくるまであと数時間。
その間に彼女たちはどうやってランサーを処刑するかの算段を立てる。
〆は桜だ。死体をむっしゃむしゃと喰らうのだ。その前、一撃で仕留めるのは誰か。
キャッキャウフフと微笑みながら彼女たちは算段を立てる。
ランサーが死んだ!まで。
あと、数時間。
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