緑茂る、ランサーリリィの座。
そこでランサーリリィは、アーチャーとふたりでいた。
きょろきょろと周囲を見回すアーチャーに、ランサーリリィは微笑んで。
「物珍しいか? ……まあ、おまえの座に比べたら随分と違うものなのだろうな。まあ、そこに腰掛けて」
促されたのは蔓で出来た椅子。細い細い一本一本で出来たそれをアーチャーは目を丸くして見て、おずおずとそこに腰を下ろした。
「意外に……強度を誇っているものなのだな」
「うん。ルーンで補強もしてあるしな」
ランサーリリィは笑って、白い手をすい、とアーチャーへと向けて伸ばした。
「さて、語りたいことなど様々にあるだろう? ここでは聞いているのはオレしかいない。語ってしまえばどうだ。少しはその重い心も楽になることだろうよ」


剣が突き立ち歯車が回る、アーチャーリリィの座。
だが痛々しさはないそこでアーチャーリリィは、ランサーとふたりでいた。
アーチャーと同じくきょろきょろと周囲を見回すランサーに、アーチャーリリィは笑ってみせると。
「私は君の恋人のようにきつく世界に縛られてはいないからな。それなりに、行動は自由に出来るんだ」
一本の、二本の三本の四本の五本の――――剣が融解して形を変え、飴細工のような椅子になる。
それに目を見張るランサーにくすくすと声を転がして、珍しいかな、とアーチャーリリィは告げた。
「大丈夫だよ、熱くはないから。私を信じて座ってくれないか? ずっと立ったままというのも居心地が悪いだろう?」
「あ――――ああ」
座ってみせて、本当だ、という顔をしてみせたランサーにいっそうアーチャーリリィは楽しそうにして。
「さあ、語ってごらん。君の胸の内を私は聞きたい。君の恋人にも語れないことでも、私になら話してもらえる……そう、思っているんだ」


「まずは……何から話そうか。そうだな、おまえの不安を聞かせてはくれないか。あるのだろう? 抱えたものが。その身の内に、心の内に」
「……そう……言われても、」
「はは、そうだな、いきなりそう言われても“はい、そうですか”と従えるはずがないものな? それならもっと楽しいことを話そうか」
「楽しいこと?」
「君が、どれだけオレの写し身を愛しているか」
「――――ッ!」
真っ赤になってしまったアーチャーに、ランサーリリィはくつくつと喉を鳴らして。
ああ、大丈夫、それでわかった、とつぶやいてみせる。大丈夫、その反応で言わずとも見て取れたよ。
「あ、な、その、あ、」
「何、照れることはない。愛するというのは決して恥らうことではないのだから。オレもオレの恋人を愛している。胸を張って言えるさ。……オレは、奴を愛している」
堂々と語るランサーリリィ。その言霊の上に、ピピ、と小鳥の鳴く声が重なった。
素直になれないのだろう?照れがあるのだろう?恥じらいがあるのだろう?続け様に彼はささやいて。
「でも、それもきっと間違いじゃない」


「紅茶はいかがかな。……ん? このような場所で茶を振舞われるとは思っていなかったという顔だな。言ったろう? 私はきつく縛られていないと。ある程度はね、自由なんだ。だからこうしてティーカップもポットも構築することが出来るし、」
シャコン。
そんな音と共に一斉に周囲の剣が音を立ててバリアのように突き立ち、ランサーを驚かせた。
「……こんな、ね。内緒話をするような場所に最適な環境にすることも出来るんだ。さて、君の抱えたものは何かな?」
「って、いきなりそんなこと……」
「言われても、困る。そういう顔をしているよ、うん、わかる。私が君だったらきっとそうだったろうさ。でも、私は私で君じゃない」
だから。
「だから、君の話を聞いてあげることくらいは出来るよ」
「その……何だ。カウンセリング、とでも言いたい訳か」
「そんなもったいぶった話じゃないけれどね。でも、近いかな」
アーチャーリリィはカップに紅茶を注ぎながら返す。そして、同じく剣で出来たテーブルの上にそれを置いて。
「そして、君も君が愛する私の写し身の心を聞いてやりたいと思っている。そうだろう?」


「おまえはオレの写し身を愛している、けれど素直になれない」
「君は私の写し身を愛している、だけど素直になってもらえない」


重なる声。ランサーリリィと、それとアーチャーリリィとの。


「おまえはそれがもどかしい、そして恨めしい。どうして素直になれないのか、と。己を責めている。だがな」
「君はそれが歯がゆい。そして口惜しい。何故素直にしてやれないのか、と。己を責めている。けどね」


白い概念武装を纏ったふたりは全く同じ、そろったタイミングでにっこりと笑んで。
「それでも」
それでも、おまえは。それでも、君は。
「それでも、相手を愛している」
だから、素直になれと。それでいいんだと。違う場所にいる互いの相手を想って。全く同じ、言葉を吐く。
「それだけで、いいんだ。他に何も必要はない」
朗々と、声は響き渡る。緑の座に、剣の座に。朗々と、歌のように響き渡る。深々と、染み渡っていくように。
「それだけで、いいんだ」
声は響き渡る。緑の座に、剣の座に。そして、互いの心にも。



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