やめてにがしてもうおうちかえりたい。
……と、青赤コンビが思ったか思わなかったかどうか。
とにかく、その場は異様なことになっていた。


「君もまた、私の愛するランサーの写し身……か。ひどく自我を失っているようだがね」
「…………」
「ランサー、ランサー、ランサー、ああ……いいな、紳士的なランサーというのもまた……抱いてくれ!」
「はは、ここは人前だぞ? おまえは自分の心に正直なんだな」
白黒コンビが。
お相手を、交換していました。
……なんでさ。
剣の椅子に腰かけ、上目遣いでランサーオルタを見上げるアーチャーリリィに。
飛びついてくるアーチャーオルタを流麗にいなし、笑っているランサーリリィ。
そして逃げたいのに、どうにもタイミングが合わなくて逃げられないノーマルランサーとノーマルアーチャー。
やめてやめてもうおうちかえりたいんでかんべんしてください。
その“おうち”がどこか皆目見当も付かなかったが、とにかくふたりはおうちに帰りたかった。ほっこりして、まったりして、癒されたかった。
少なくともこんな光景は見たくなかった。
「ああ……アーチャー、おまえが磨耗する感じってこんな感じだったんだな……。今ならよくわかるぜ……」
「君まで磨耗してどうするランサー! ……ああ、でも私も心がガリガリと削られていくのを感じるよ……」
ほんとうにもう、ごしょうですからおうちにかえしてください。
それはもしかしたら衛宮邸だったのかもしれなかったし、遠坂邸だったのかもしれなかった。間桐邸?ないわー。
「私の愛するランサーの写し身……君の心を私の手で取り戻してあげたいと思うのは、私のエゴかな?」
「……特に……異存はねえ……」
「ランサー、ランサー、ランサー、ふふ。焦らしテクという訳か……いい! それもまた最高だ! さすが私のランサー!」
「オレの相手は他にいるんだがな。それでも……おまえの一夜の慰めになるのなら。抱きしめてやるくらいは、してやれるぜ?」
もういいですから。
おうちかえしてください。
「アーチャー……オレもう泣きそう……」
「なっ! 男がそう軽々しく泣くものではない! それに君に先に泣かれたら私はどうすれば」
「おまえも泣きたいんじゃねえか!」
「悪いか!」
「悪くないですアーチャーの泣き顔超見たいですお願いしますアーチャーさん泣き顔! 泣き顔ヘイカモン!」
あまりのプレッシャーに変なテンションになってしまっているノーマル槍弓だった。
ヘイ!カモン!とノーマルランサーなど手拍子までかましてくる始末だ。始末書ものだ。
そんなふたりを他所に、白黒と黒白はそれぞれの固有結界を作り上げていた。それなりにいちゃいちゃと。
「君の心はどこにあるのだろう。私はそれを君に返してあげたい」
「…………」
「ランサー、もう何でもいいから抱いてくれ!」
「正直者だな、おまえは。それでも……人前だぞ?」
微笑みを浮かべるリリィふたりと。
静動のオルタふたり。
魂が抜けそうなノーマルふたり。
というかもう抜けかけていた。
「あーちゃー、おれおうちかえりたい」
「ランサー……せめて漢字で喋れるくらいの理性は保ってくれ……」
でないと、私まで泣いてしまう。
震える声でノーマルアーチャーは言って。
しゃきん!と、ノーマルランサーの気力を取り戻させていた。
「泣きそうになったらアーチャー……いつでも、オレのここ、空いてるぜ……?」
「何だその微妙な芸人ネタは」
一気に素に戻るノーマルアーチャー。勢いノーマルランサーもつられて、え?となった。
「いや、だからオレのここいつでも空いてるって」
「だから意味がわからなかったという意味ではなく!」
大声で怒鳴ったノーマルアーチャーに、一気に白黒&黒白の視線が向く。ヒッとなったノーマルアーチャーをかばうように前に出るノーマルランサー、
「アーチャーはオレが守る! おまえらの、好き、には、させね……」
え?
ぽかんと間が抜けた。
「え? ちょっとあの、アーチャーさん?」
「…………」
無言で、じりじりとノーマルランサーの背を押すノーマルアーチャー。慌てふためいて、え、ちょ、あの、とただただ繰り返す機械になったノーマルランサーにノーマルアーチャーが。
「……ランサー。私のために、死んでくれ!」
「えええええええ!?」
すげえ!
ひでえ!
その日、一輪の青い花が傷心のために散ったと言います――――。



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