「ランサー、腕を組んでも……いいか?」
「おお。独りでやってくれ」
「ん?」
独りで?と言いながらとりあえず腕組みをしてみるアーチャーオルタ。それからはっと我に返ったような顔になり、
「もうっ!」
「うおっ!」
どすん!と轟音を立てて猛タックルをかましてきた。
「意地悪さんだな、ランサーは! それとも照れているのか? そんなところも……可愛いな……」
ぽっ。
だなんて照れたりしてみてもいつものキャラがキャラである。馬乗りマウントポジションを取られたランサーはゆるーく、
(あ、これ駄目だ)
とか、思ったりするのであった。
始まりはとある夜のこと。
『この賭けに私が勝ったら一日デートしてもらおう! いいかねランサー!?』
『何だその脈絡のねえ発言! ……そうだな』
びしぃ!と人差し指をランサーは白い顔に突きつけて。
『よし! だったらな、オレが勝ったらもう今後一切オレには付き纏うな! わかったな!?』
『ん?』
きょろん、と。
目を丸くして人差し指を見つめたアーチャーオルタは、にこりと笑って。
『ああ、いいとも?』
決断早っ。
その時の反応速度で。
――――悟るべき、だったのだ。
『ちくしょおおおお負けた! 何なんだよこのボロ負けっぷり! おかしいだろ! だっておかしいだろ!?』
条件は同じLUK・Eのはずなのに!と叫ぶランサーの前で、アーチャーオルタは微笑みながら。
『あ、言っておくのを忘れたがな。私は桜がマスターとなった時点でステータスを底上げされているぞ? もちろん幸運もな』
『……は?』
『それに……ほら』
ちらり。
胸元を強調するアクションで見せ付けられたのは、何やら光るペンダント。まさか。
『幸運を招くペンダントだよ』
……やられた。
あー、ああいうのってマジで効く奴には効くんだー、だとか。色々思うところはなかったこともなかったけど。そんなこんなで、ランサーはアーチャーオルタと一日デートをする羽目になったのでしたー、まる。
「ふふ、ランサー。私たち、今……周囲の奴らにはどのように見えているだろうな?」
「他人」
「もうっ!」
「っと!」
今度は肘打ちをかまそうとしてきたアーチャーオルタだったが、回避動作をランサーが取ろうとしたので、すっ……と、その力を拡散させる。そのままどこかへすっ飛んでいくような頭の悪いことはしなかった。さすが黒いアーチャー、(脳が)腐っていても策士である。
「ランサー!」
代わりにその胴に抱きついて、ざわざわざわと寒気を走らせる。そんなことをされたランサーからしてみれば、ひぎぃぃぃぃらめぇぇぇぇ、だ。
「もうっランサーったら本当に照れ屋さんなのだから可愛いなっ! けれどもし私以外の前でそんな顔を見せたら……」
殺すよ?
にっこり笑って言う、ヤンデレアーチャーオルタさんでしたとさ。
いやいやいやいや。
それってデート中に言う台詞じゃねえだろ。ついでに好きな奴に言う台詞でもねえだろ。と、内心でツッコミまくるランサーであったが、当然内心だったので、アーチャーオルタには届かない。
「さて、今日はこれからどこへ行こうか? ラブホテル? ラブホテル? それともラブホテル?」
「いやオレにも選択権よこそうぜ!?」
「じゃあモーテル?」
「大体意味一緒ですよねえ!?」
しかも今、昼でもねえし!朝だし!
優雅に華麗にツッコむランサーさんでしたが、その胴にくっついてすりすりなどしているアーチャーオルタさんは聞いちゃいなかった。
「ここで……しようか?」
「屋外で!?」
おくがいでおくがいでおくがいでおくがいで……ランサーのツッコミがエコーして青い空に消えていった。
「ふふっ」
「…………」
「楽しかったなっ、ランサー?」
「ああ……おまえだけな……」
あれから事あるごとにラブホテル、ラブホテル、たまにモーテル(あったらしい。さすが新都)に連れ込まれそうになって、げっそりとやせ細ったランサーとは裏腹にアーチャーオルタはツヤツヤイキイキとしていた。
ランサーの尊厳を守るのなら、既成事実はなかった……とだけ言っておこう。
そうでもないと彼が哀れすぎた。
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