「正直アーチャーがいれば俺はどうでもいいよ」
「またぶっちゃけたな坊主」
我も役立つぞ?
真顔でライダースーツの英雄王が言うが、言峰士郎さんと最速の英霊ランサーさんは聞いちゃいなかった。
アーチャーさんはどうしたものかと額に指先を当ててぐいぐいしていた。
神父は愉悦っていた。
「だって俺に取ってアーチャー以外は屑でしかないもの」
「仮にも英雄様に対してその文句か、おい、なあ」
「んん?」
にっこり。
大変に天使のような笑顔で微笑んでみせる言峰士郎さん。胸の前で組み合わされた両手。
それをガッ、と、ガッ、と掴んでランサーさんは因縁をつける。神々しい笑顔で。
「穿ってもいいんだぜ? 坊主。忌々しい、その、心臓をなァ?」
「あはは、自害させるけど構わないよね?」
「その前にぶっ殺す」
「……士郎。ランサー」
なあにアーチャー?
天使の笑顔で振り返る言峰士郎さん。なんだよ、と大変チンピラ臭く返すのは神々しい笑みを浮かべたままのランサーさん。
ただし額に青筋装備。
「喧嘩はやめたまえ。まだ聖杯戦争も始まっていないのに」
「だって、アーチャー」
「だってよ、アーチャー」
「わかった、わかったから」
そっと差し出されるのは真っ赤で真っ赤で真っ赤なマーボーと血の滴るようなレアステーキ。つまりは肉。
「これでも食べて落ち着くといい。人間、腹が減ると苛立つというから」
「わあ、ありがとうアーチャー!」
「おう…………これ、犬の肉じゃねえよな?」
「士郎、いつものように前掛けを。ランサー、大丈夫だ。きちんと牛の肉を使用している。英雄王、君にもいつも通りのオムライスを。文字は? “我最強”? 仰せのままに。綺礼、君にも士郎と同じものを」
わいわいきゃっきゃ。
俄かに女子会のような華やかさを帯びる教会内でしたとさ。


「あーひゃ、」
「士郎」
こしこし。
「口の周りが汚れているぞ。あと口の中のものを飲み込みなさい、私は逃げない。ランサー、君は? エール? 済まないが用意がない……ビールかな、それともワインで我慢をしてくれないだろうか。ああ、大丈夫だ英雄王。君の私物ではない。あと口の周りのケチャップを拭かせてもらっても構わんのだろう? ほら、顔をこちらに。綺礼、お代わりかね?」
まるでバトラー……もしくは介護の方ですか?
だなんて働きっぷりを見せるアーチャーだったが、その顔に疲れはなかった。むしろ活き活き。
むぐむぐむぐごっくん、と口の中のマーボーを飲み込んで、アーチャー、と言峰士郎さんは話し出す。
「今日さ、学校で。遠坂と話したんだけど」
「うん?」
「遠坂はセイバーを喚び出したいみたいだ」
「――――そうか、セイバーを……。確かに遠坂は御三家であり、セイバーは最優のカードだからな。当然の選択と言えるだろう」
「ゴサンケ?」
「肉を口で噛み切るのはやめたまえ、ランサー。ちゃんとナイフとフォークを用意しただろう? ほら。英雄王、デザートを所望かね。ケーキ? パフェ? ……何? 両方だと? さすがにそれは……。ああ、綺礼、こぼれている」
最後はちょっと介護の人になった。慌ててこぼれたマーボーを拭っているアーチャーに、「アーチャー」と打って変わった真面目な声で言峰士郎さんは。
「もうすぐ。……始まるのかも、しれないよ。聖杯戦争がさ」
「――――」
途端、緊迫する空気。英雄王と神父はそれぞれもぐもぐまぐまぐとデザートとマーボーを食べていたが。
「そう、か」
胸に抱いたペンダントをちゃらりと鳴らし、アーチャーがつぶやく。そうか、と二度目、感慨深く繰り返し。
「始まるのか。あの、戦争が」
「……あの?」
「ああ、」
何でもないよ、
「士郎」
「……む」
「士郎?」
「気に入らないなぁ」
ぬっ、と。
顔を出した言峰士郎さんに、目を丸くするアーチャー。しろう、と問うアーチャーに言峰士郎さんは。
「アーチャーは俺のことだけ考えてればいいんだよ」
「……は?」
「というわけでアーチャー!」
一緒に寝よ?
だなんて言う言峰士郎さんに、思わず真顔で枕を抱えてしまうアーチャーだった。なんでさ。



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