「赤いお兄ちゃんはあたしと遊ぶのよ、ねえあたし?」
「そうよあたし、楽しい楽しいおままごとをして遊ぶのよ!」
白と黒の幼女が声をそろえて言えば、その向こうから赤い王様が身を乗り出して。
「何を言う! アーチャーは余と遊ぶのだ! そう決まっておるのだ、なあアーチャー?」
「ひどいわ、大人のくせに!」
「そういうのを、ぼうぎゃくぶじん、っていうのよ!」
幼女たちが責めるが王様は聞こうともしない。身を乗り出したまま手を伸ばして、アーチャーの概念武装の裾を引こうとする。
そんなアーチャーを背後からはがいじめにする存在があった。その腕は青く、すらりと伸びて。
「悪いなお嬢ちゃんたち。アーチャーはオレのもんなんだ、昔っからな!」
「何をする、この恥知らずめ! 余のものに手を出すなど、反逆罪ものだぞ!」
「大人のくせに! 大人のくせに!」
「男のひとのくせに! 男のひとのくせに!」
「何とでも言いな」
勝者の微笑み――――かと思えば。
「我がアポロンに手を出すとは何事か!」
髭をたくわえた男がやってきて、ごつごつとした鎧に覆われた腕を乱暴に反対側から伸ばしてきた。おっと、とアーチャーを抱えたまま青い腕の主は身を翻し。
「何すんだ、いきなり横からやってきやがって!」
「それを貴様が言うか!」
きんきんと甲高い声で赤い王様が叫ぶ。だが男たちは知らん顔。
そこにシュンッ、と音を立てて割って入ってきたのは、矢。
「別にそいつに関してはどうでもいいけど、勝ちにはちょいとうるさいんでね」
逃す訳にはいかねえんですよ。
明るい茶髪の青年が構えた弓を下ろしてもう一本、矢を番えようとする。それにニヤリと青い腕の主は笑って、
「そんなこと言いやがって、若い奴はこれだから。ぐだぐだと理屈をこねて好きなもんを手に入れようったあ、まるっきり子供のそれだな」
「な、に言って、」
「そうよそうよ! お兄ちゃんは子供だわ!」
「そうねそうね! お兄ちゃんは子供だわ!」
「うるせえガキ共! 俺の毒で殺すぞ! じわじわ殺すぞ!」
「そんなの怖くはないもの! 子供をおどすなんて、お兄ちゃんはやっぱり子供だわ!」
「そうよ、怖くなんてないわ! お兄ちゃんはやっぱり子供ね!」
「ほら、お嬢ちゃんたちにも言われてやがる」
勝ち誇ったように青い腕の主が笑えば、茶髪の青年は顔を怒りにかそれとも他の感情にか顔を見事に赤くして。
赤い王様の纏ったドレスのように、真っ赤にして。
「ようしよく言った――――おまえら全員、イチイの毒で死ね!」
「きゃあ、怒ったわ!」
「いやあ、怒ったわ!」
「これだから気のみじかいひとは、いやなのよ!」
幼女たちが声をそろえてきゃらきゃらと笑い、青年を明らかに馬鹿にする。
くすくすきゃあきゃあと笑って、青年の血圧をじりじりと言わずがんがんと上げていく。お兄ちゃんは子供!お兄ちゃんは子供!そんな声がこだまして。
「諦めたらどうだい、兄さんよ。お嬢ちゃんたちにさえ、おまえさんは勝てねえみてえだからな」
「う……るせえ!」
ぎりぎりぎりぎり、弦がしなる音が鳴った、ところで。
長い茶色の髪にウェーブをかけた制服姿の少女がひとり。
ばん、と腕組みをしたまま自動ドアのように教室のドアを開けて中に入ってきた。そう、ここは教室、彼女のマイルームだったのだ。
彼女はしん……となった辺りを見回して、一体何をしているんだとばかりの視線をそれぞれのサーヴァントたちに向ける。
「お、お姉ちゃん、お顔が怖いわ」
「そうよ、おどしたって、むだなのよ」
「余は何も悪いことはしていない! ただ欲しいものを手に入れようとだな!」
「嬢ちゃん、落ち着け。嬢ちゃんのしていい顔じゃねえぞ」
「アポロンは我が手に落ちてくる物!」
「俺は何もしてねえぞ!」
「嘘つき、嘘つき!」
「そうよ、そうよ!」
「うるせえ!」
また騒ぎ立てそうになった彼ら彼女らに、少女がぎんと視線を飛ばす。それはまさしく支配者のそれ。
腕組みをしたまま彼女は、物凄い威圧感をサーヴァントたちに向けて放っている。そう。
まるでそれだけで、人だけでなくサーヴァントをも殺せそうな凄まじい視線をも。
「…………」
彼ら彼女らに出来ることと言えば、無言になってそろそろとアーチャーから手を引く、それだけだった。
そうすると、たたっとアーチャーの元に彼女は駆けていき。
緊張感が解けたのか、ぺたりと座り込んだアーチャーの目前に仁王立ちで立ったのだった。
すぐさまマスターの元へ帰れ。
と。
その視線は言っていて。
すごすごと帰るしかないサーヴァントたちと、結論的にアーチャーをゲットした彼のマスターである彼女、という縮図がそこにあったのだった。



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