これはひどい。
だとか。
リア充爆発しろ。
だとか。
ふたりは、言ってよかった。いや、言うべきだった。


「それでさあ、アーチャーが可愛くって! え? 全然可愛くない? そりゃあ遠坂さんの前じゃそうなんじゃない? 俺の前でだけ可愛いんだよアーチャーは! もうデレデレでおまえ何? 何のサーヴァント? アーチャーってそれ嘘だろ、みたいなさあ!」
「そ……そうなの……」
屋上で、昼食を摂りながら彼と遠坂凛はそう語り合い。


「彼はまだまだ未熟者だが……伸びるよ。やがて私など足元にも及ばないくらいの力を得るだろう。その素質が彼にはある。私は、彼を認めるよ」
「へえへえ。そんでアーチャー、オレの気持ちを聞いてほしい訳だが」
「ん? まあそれはまた後でな。それよりも彼は……」
アリーナ入り口前、霊体化しつつアーチャーとランサーはそう語らい合い。


彼とアーチャーはほくほくと、凛とランサーはじりじりと、互いの話を聞いていた。
ぶっちゃけ、彼&アーチャーは至福、凛&ランサーは地獄だった。
時は少し遡る。
未熟者、未熟者、と彼を評価していたアーチャーだったが、日を重ねるごとにその態度は軟化していき、とうとう今ではこの有様である。凛は人の惚気なんかを聞いてられるかこの野郎状態で、ランサーはアーチャーに自分の気持ちを聞いてほしかった訳だが、相手が悪かった。
全く彼もアーチャーも相手のことなど考えていなくて、べらべらと互いのパートナーのことを喋ってばかり。
凛は凛でキレそうで、ランサーは「こいつ、オレの男心をどう考えてるのかねぇ」と達観ムード。
とりあえず、傍迷惑なふたりだった。
(――――〜っもう、こいつら何でふたりばらばらにいるの!? 始終一緒にいてべたべたしてたらいいじゃない! それでいいじゃない! だってそれってば、アーチャーが作ったお弁当なんでしょ!? わたしなんて購買で買ったカレーパンよ!? カレーパンなのよ!? あんたはいいわよね! 愛ある手作り弁当!)
わなわなとカレーパンの中味が飛び出しそうなほどパンを力強く握る遠坂さん、額には青筋。その目の前では彼がうまうまと、アーチャーの作ったという弁当を食べていらっしゃる。
だからってランサーにお弁当を作ってほしい訳じゃないけど、絶対ないけど!内心で絶叫する凛だったが、手の震えは隠せない。
一方抱えた恋心を華麗にスルーされ続けているランサーは、こいつ押し倒して――――いや、壁に押し付けてあれこれしてやろうかな、マスターとやらの記憶を上書きしてやろうかな、なんて危ういことを思ったりしている。だって恋する男の前であまりにもあまりだ。
告白することすら許されないなんて、ランサーの性分的に合わなさ過ぎた。


「ねえ、あなた?」
「え?」
「ちょっとその口、閉じてみない? でないとわたし、そろそろこのカレーパンの中味をあなたの目に叩き付けちゃいそうなの……!」
「え、なに、いきなりどうしたの、遠坂さん」
「いきなりじゃないわよおおおお!」
目に攻撃とかヒールのすることだよ!?とまさに意外そうに言われて凛はもう頭の中がぶっちんと音を立ててキレそうだ。もういいわよ、わたしヒールだって、もう構わない。今すぐあんたの惚気まくる口を閉じたいのよ!
そんなあかいオーラを発してカレーパンを握り締める凛、優雅に以下略なんて家訓があった気がするけど覚えてない。たぶんそれは違う時空の遠坂凛だ。
いわゆるパラレルワールドのそれだ。
「目を思いっきり開けていなさいね、そうしないと中味がちゃんと目の中に入らないから……!」
「遠坂さん待った! 食べ物は大事にしろってアーチャーが!」
「あんたこのごにおよんでアーチャーのことなのおおおお!?」
限界だった。


あ、とランサーが上を見る。アーチャーは隣でとうとうとマスターの彼のことについて話している。
「駄目だ。嬢ちゃんがキレた」
「……という訳で、彼は目覚ましい進歩を遂げ……ん? どうしたランサー?」
「いや、こっちの話。嬢ちゃんの我慢が効かなくなったってことで」
「そうか」
終わりである。残酷すぎる赤い弓兵であった。
「それでよアーチャー、オレの話」
「うん、だが私の話を聞き終わってからにしてくれるかな。それで彼はな……」
「…………」
あ、駄目だ。
こりゃ駄目だ、と早々に諦めたランサーは、凛よりもまださばさばとしていた。
この野郎いつか既成事実作ってやる、とは思っていたけれども。


「遠坂さん! 落ち着い……痛っ! カレーパンの中味で目が痛っ! やめてくれって遠坂さん、食べ物で遊んだらいけないってアーチャーが」
「だからアーチャーアーチャーうるさいって言ってるでしょお!?」
屋上では。
キレた遠坂凛さんにカレーパンを持って追い回される彼の姿があったのだった。
全然わかってない彼と、久々にキレちまったぜ……な、遠坂凛さんの姿が。
「遠坂さん落ち着いてくれってばー!」
「うるさい、この馬鹿ー!」
どたばたどたばた。
走り回る男子生徒と女生徒。
校内での私闘は禁止されています。
とか、テロップが出たとか、出なかったとか。



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