「セイバー!? セイバー! 天井から男の人が! 真っ赤で真っ黒な服を着た男の人がー!」
「何だって!?」
ガタッ、と椅子から立ち上がるセイバーことアーサー王。
焦って怯えた声の彼のお姫様こと綾香さんのいる天井裏までどたばたどたばた、と足音高く駆けていき。
「大丈夫かい綾香――――?」
「……やれやれ」
乱暴な召喚だ、とため息ひとつ、その「真っ赤で真っ黒な服を着た男の人」は。
瓦礫の中から、セイバーを眺め見やったのであった。


「またもや異次元に召喚とは。……イレギュラーも程々にしてほしいものだ」
「…………」
無駄に煌めくセイバーの碧い瞳。
すた、すた、すた、と彼は「真っ赤で真っ黒な服を着た男の人」の元へと歩み寄っていく。その後ろへと隠れるように身を翻す綾香。
む?と顔を上げた「真っ赤で(略、は、ばちんとセイバーと視線を合わせ、その後、
「僕の妻となってくれないかな」
「……は?」
ブリテンの王からの、求婚を受けていたのであった。


「アーチャー」
あの悪趣味な?
頭にたんこぶをこさえた(作:眼鏡オフ綾香さん)セイバーの言葉に、アーチャーはこちらでも?と問いかけて、「いいや」と首を振り。
「確かに私は“アーチャー”だがね。君たちの世界の“アーチャー”とはまた違う存在なんだ」
ちなみに、私の世界のセイバーはこのような姿だよ。
「うわっ、何だいこれ」
「わあっ、可愛い……」
それよりも、どうして胸元にそんな女の子の写真を。などと突っ込む無粋な輩は幸運にもそこにはいなかった。アーチャーは胸元へ金髪の可憐な少女がどんぶり茶碗を持って微笑む写真を仕舞い直し、しかし、と悩ましくつぶやく。
「こうポンポンと癖が付いたように世界観を右往左往されるとさすがの私でも困るな。なるほど、あの時の凛の気持ちがわかったよ」
「凛?」
「いや。こちらのことだ」
また女の子の名前っぽいな、とセイバーと綾香はそろって思ったが、あえて突っ込まずにいた。それが人付き合いを円滑に進める方法だとかそういったことではなくて、ただ単に思い付かなかっただけである。
「さて、そろそろ失礼しようか。私は私で世界観を移動する術を探すとするよ」
「え、待ってください! わたしたちも協力させてください、ね、セイバー!」
「そうだよアーチャー、僕たちは硬く婚儀を交わした仲じゃないか!」
「……え?」
その時。
「その話は本当かしら!?」
高飛車ながら品のある声が響き渡った。この声は――――綾香が顔を顰める。
「そう、私は!」
庭に躍り出れば、そこには少女とサーヴァントがひとり。
「ランサー……君も相変わらず苦労するな」
「はいはい、騎士王様からのお言葉ありがたーく頂戴いたしますよ」
「ランサー? 敵と喋っている暇などないでしょう?」
「美沙夜さん!」
また、戦いに来たの!?
俄かに綾香が戦闘態勢を取り、セイバーが彼女とアーチャーを庇うように前に出ればサーヴァント……ランサーが槍を構えた体勢からふと表情を崩す。
「あ? 新顔か?」
きらきらきらきら。
「……アンタ」
「……ランサー?」
「オレのもんになってみねえか」
「突然ふざけたことを言い出すのねランサー。腹を切り裂いて中味を私の犬たちにくれてやるわよ?」
「アヤカ――――!! 我が嫁になれ――――!!」
「うわっ鬱陶しい人が来た!」
「ぬ? そこにおるのは……ふむ、妾にしてやっても」
「何ですか!? 何なんですかあなた!? 魔性ですか!? 男の人キラーなんですか!?」
「綾香! 落ち着くんだ綾香! 鳩を殺す刃物を振りかざすのはやめるんだ綾香!」


すったもんだあって、まだアーチャーはこの世界線にいる。マスターである遠坂凛とは連絡が取れたがそう易々と平行線の移動は出来ないとかで。というわけで、彼は。
セイバー。
ランサー。
アーチャー。
彼ら三騎士たちの間で、楽しく殺気立ち騒がしくわいわいと。
何だかんだと、やっていけてはいるのだった。
「ほら綾香。朝食はちゃんと摂ったかね? 昼食の弁当を作った、持っていきたまえ。あと鳩たちの面倒は私が見ておく。植物たちにも水をやっておくから、」
「お母さん……!」



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