ざっ。
靴底が音を立てる。
「……報告は以上です。戦果は……」
「いい。書類に目を通せば済むことだ」
「はっ」
将校、アーチャーは深々と礼をする。上げられた髪がその動きにつられて揺れた。
「それでは、失礼いたしま……」
「違うだろう」
「は……?」
「“アーチャー”」
真顔が。
崩れ、悪戯なそれに変わる。
「おまえの作った書類だ。おまえの注釈が必要だろう?」
「…………」
白い手が、自らの膝を叩いて。
「座れ。ここに、足を開いて」
「……戯れは、」
「戯れなものかよ」
くっ、と。
赤い唇が、歪む。
「何も服を脱げとは言ってねえ。着たままで。……それがいい」
「――――」
もうすぐ、彼女がやってくる。
アーチャーと同じ階級の彼女が。剣士の名を持った彼女。
「セイバ、ー、が、」
「それまでには終わらせる」
撫でる。
さわり、と、軍服に包まれた白い肌。
それを透かすように、彼は自らの足を、膝を撫でた。
「来いよ」
「――――」
アーチャーは息を呑んだ。
こう言われれば、逆らう術はない。
いつもそうだ。


「……はい」


ごくり、と、唾を飲み下した。


「……ここは?」
「そこ、は、」
「ああ、下っ端たちのアレか」
「……そう、です、」
「声が」
震えてるぜ、と耳元でささやかれる。
「ん――――、ッ、」
彼女が来る。
それまでに、彼は書類を読み終えてくれるだろうか。
金色の髪。蒼色の瞳。凛として美しい、抜き身の剣のような彼女。
戦場では最前線で戦う、彼女が。
やってきて、しまう、
「アーチャー?」
「は、い」
「今、ドアが軋まなかったか?」
「え……っ」
「来たかもな。おまえの大好きな、“奴”が」
「あ……!」
慌てて彼の膝から降りようとするが、がっちりと腰を抑え付けられていてどうしようもならない。服は脱がさない。その言葉の通りに、けれど乱された上半身の着衣。白い手が這いずることが出来るように。た易く、けれどもどかしく。
出来る、ように。
「失礼します」
声が、した。
「!」
声を詰まらせる。でも、意地悪な手は肌を撫でて。
「ああ、セイバーか」
彼の笑い声が、殊更近い耳元で響いた。



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