「アーチャー!」
「おいアンタ!」
「エミヤさん!」
最後の呼びかけに前のふたりがぎしっ、と固まる。
エミヤさんんん?
「おいこら、虐めるのはやめたまえ!」
「だってなんでこいつだけ真名呼びなんだよ!」
「そうだそうだ!」
「仕方ないだろう! アーチャー呼びでは第四次のアーチャーを思い出してしまって紛らわしいと言うのだから!」
「だからって大事な真名を許すか!?」
「生命線みてえなもんだろ!」
五次ランサーとプロトランサーに詰め寄られ、アーチャーはああ、もう、と。
四次ランサーことディルムッドは涙目になっているし。
と、いうか、ディルムッドだけ真名呼びをしているのがばれでもしたら厄介なことになるだろう。しかもディル、と愛称呼びまでしていることがばれたら。
というか五次ランサーとプロトランサーは同じ“クー・フーリン”で面倒臭い。愛称呼びにしようとしたってふたりとも同じ“クー”だし。
どっちのクーだ。
という話になるだろう?
「……やれやれ。それにしたって、三人で詰め掛けてどんな用事なのだね」
「あ、そうだ」
五次ランサーがぽん、と手を叩く。
「おまえ、オレたちの中で一体誰が本命なんだよ」
「――――は?」
何だか、おかしな言葉を聞いた気が。
「そうだよ。アンタ、一体誰が一番好きなんだ?」
「…………」
苛々としているプロトランサー、顔をわずかに赤くしてチラチラとアーチャーの方を見ているディルムッド。
「好き、というのは?」
「性的な意味で」
「そうじゃねえよ!」
「です!」
五次ランサーが総ツッコミを受ける。ディルムッドが沸き立つというのも珍しい。
……性的な意味とか、困り果てるのだが。
「冗談だろうな、ランサー? でないと私は君にだけ向かってUBWをすぐさま発動させないとならない」
「オレだけ特別?」
「……喜ぶのかね」
それは明らかにいけない性癖持ちの人だと思うのだが。いや、人ではなかったか。半神半人か。
だとしたってアウトだ。
「なー、おまえ誰が好きなんだって」
「聞かれても……」
「どうなんだよ、アンタ」
「だから……」
「エミヤさん……」
「ディル。おまえ殴りてえ」
「このイケメンが」
「えっ」
ディルムッド、メチャクチャである。
……それにしたって、「本命」とは。
アーチャーはそういうことには疎い。色恋沙汰とか恋愛関係。生前だって疎かったのに、サーヴァントになってからはそれ以上に疎くなった。
なのに現在、三人の相手に詰め寄られている。
どうしろと。
「もちろんオレだよな、アーチャー?」
「はっきりしろよ、アンタ」
「エミヤさん!」
だからディルムッド。
「…………」
とりあえず考えてみる。でも、決まるわけがない。
だって、そんなの。
「皆、同じように好き、ではいけないのかね?」
「いけないに決まってんだろ」
「当たり前のこと聞くなよアンタ」
「あの、その、俺は、」
困った。
困ったけど、救世主なんていなくて。
アーチャーは“ランサー”たちに迫られて。
頭を痛ませる羽目に、なるのだった。



back.