ええと。
なんでこんなことになったんだっけ?
紅茶をカップに注ぎながら、赤いアーチャーは思う。
「そりゃあ、オレたちのマスター直々の言い付けだからですよ」
ミルクは?レモンは?砂糖は?
「ストレートで」
緑のアーチャーはそれにそう返すと、白い陶器のカップを手にする。
「あちち」
「煎れたばかりだからな。それは熱いだろう」
「…………」
「…………」
「で、どこから始めます?」
緑のアーチャーは赤くなった舌をぺろりと出して、そう切り出した。
『アーチャー。同じクラスの彼と親睦を深めてきなさい』
そう言い出したのは、ダン・ブラックモア。
『それはいい提案ですね。アーチャー、行ってらっしゃい!』
溌剌と返したのは赤いアーチャーのマスターの少女で。
――――あんな楽しそうなマスターは見たことがなかった。
後に赤いアーチャーはそう語る。
「ええと……とりあえず、マスター談義でもしましょうかね」
「マスター談義?」
「別にトラップの仕掛け方でもいいんですよ、オレは。でもそいつじゃ色気がないでしょう」
「色気……」
赤いアーチャーは考え込む。だとしたら、マスター談義には色気があると?
「じゃ、アンタから。あのお嬢ちゃんはどんな感じですかい」
ぴくん。
赤いアーチャーはその取っ掛かりに反応した。手にしていたカップをテーブルに置いて、朗々とした声で語りだす。
「そうだな……彼女はまだ未熟者だけれど。とても、いい子だ。私などを気遣ってくれて、いつも笑顔で語りかけてくれて。この前など――――」
「あーはいはい、わかりました、わかりました、よっと。大好きなんですねぇ、マスターさんが」
「なっ、その、私はっ」
スキスキ大好きなんでしょう?
緑のアーチャーがニヤニヤ笑ってそう言えば、赤いアーチャーはふくれて。
「……なら、君のマスターはどうなのだね」
「あー、うちの旦那ですかい。真面目一辺倒のお方ですよ?」
「嫌いなのかね」
「誰が言いました、そんなこと」
またもや「あちち」と言って困ったような顔をしカップを置くと、緑のアーチャーは。
「そりゃたまには困ったことも言い出します。でも、嫌いだって誰が言いました?」
「それでは、好きということになるな」
「……あのですね。アンタん中には好きか嫌いかのどっちしかないんですかい」
「好きなのだろう?」
「……嫌いじゃあないです」
くす。
「……ハァ!? アンタ、何笑ってんです!?」
「いや、」
素直ではないなあ、と。
「思っただけで」
「……アンタがマスター好き好き過ぎるだけっすよ」
「む、そうだろうか」
顎に手を当て考える赤いアーチャーにそうそうそうです、と返して緑のアーチャーは充分に吹き冷まし温めになった紅茶を啜る。
「彼女はね。逞しくて、格好良くて。とても……」
「ちょっと待った」
「ん?」
「逞しく?」
「うん」
「格好良くて?」
「うん?」
「……それ、当人の前で言わない方がいいっすよ」
「何故だろうか」
「女の子の前で言うことじゃあないからですよ」
このトウヘンボク。
不思議そうな赤いアーチャー。はあ、とため息をつく緑のアーチャー。彼は小さな声で、
「ったく、鈍感はこれだから」
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