おまえの目は剣みたいだよ。
彼が犬歯を覗かせそう言う度、私の心臓は高鳴る。
嬉しい、……嬉しい、とても。
「そうかね」
けれど私の口は冷たい言葉を吐くのだ。気付かれない。気付かれない、ように。
この胸の高鳴りを。彼を。
好きだという、気持ちを。
「にしても、おまえはしつけぇな」
「君に掛けられた懸賞金は法外でね」
くつり、と笑う。それだけで彼はああそうかい、と呆れる顔をしてみせた。
それは本当のことだ、嘘じゃない。彼に掛けられた懸賞金は目玉が飛び出るくらいだ。
だけど私が彼を追い回すのは決して金だけのためじゃないんだ。
金なんかのためじゃないんだ。
それはね。
……それは。
「それに君は人間の、女性に手を出すんだろう? 人間の振りをして。被害届が山のように出ている」
「あー……そいつは、な」
がりがりと頭を掻く。嫉妬にちくり、と胸が痛んだ。
「魔物に手を出されて気分がいい人間はいないさ」
嘘だ。
そんなの、嘘。
だって。
「魔物に触れられるだけで気持ちが悪いって?」
違う。
「ああ、そうだとも」
違うんだ。
「そうかよ」
違うんだよ。
なあ、私はね。
君に一目惚れをしてしまったんだ。
触れられたいと何度も思った。その手で。白く透けるようなその手で、何度も、何度も何度も何度でも。
だけど私はハンターだ。
魔物を狩る立場にいるハンター。
だから、この気持ちを告白するわけには行かない。君が手を出した女性たちのように、君の腕に抱かれるわけには行かない。
だからね。だから、嘘を吐く。
君を殺すという物騒な嘘を吐いて、ぎりぎりまで戦って、だけどとどめなんて差せない。
もしも、そんな機会になったなら。
私はわざとでも君を逃がすだろう。
――――羨ましいよ、と。
君に抱かれた女性たちに呪いの言葉を内心で吐きながら。
彼女たちを守ると、嘘を吐いてみせるんだろう。
きっとそうなんだ、そうに決まっている。
「なあ、オレは人なんて殺してねえよ。抱いたお嬢ちゃんたちだって同意の上だ。……なのに、オレを殺すって?」
「ああ。魔物は狩らねば」
「被害届なんてお嬢ちゃんたちの親族が出したんだろうさ」
ああ、そうだよ。
止める女性たちの声を無視して、親族たちが山のように被害届を出すんだ。魔物に穢された。大切な娘たちが穢された、と。
そうやって、君の首に掛けられた懸賞金は膨れ上がっていく。
君の腕に抱かれた女性たちは誰も、君のことなんて恨んでいないのに。
「そんなの」
知るものか。
私は彼に剣を突き付け、冷たい声をも突き付ける。
したくないのに。
こんな、こと。
ああ、でも、君に会える。
反対に、こんなことをしなければ君に会えない。
ハンターだから、君を殺さなければ。
ハンターだから、君に会える。
私の心は、引き裂かれて。
ひどく馬鹿げた、血を流す。
「なあ、ランサー」
私は、笑った。
「私に殺されて、くれないか」
そして、戯れのような嘘をまた、吐いたのだった。
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