聞こえるのは高笑い。
「ははははは! 良いぞ、良い良い!」
愉しそうに笑うのは最古の英雄王。
「傅け、跪け、愛を乞え!」
周囲に蟠るのは鋼色の髪を持った。
赤い礼装を纏った男。
ジャケットを羽織った男。
目隠しをされた男。
たちで。
「酒を注げ、我を見つめよ、贄となれ! フェイカー共!」
ステイナイトアーチャー、エクストラアーチャー、プリヤアーチャーである。
彼らは何の事情かギルガメッシュの元に集い、奴隷となっていた。
「口を……」
そっと銀色のフォークに刺した苺をギルガメッシュの口元に運ぶのはステイナイトアーチャー。
「失礼する」
金色の器に酒を注ぐのはエクストラアーチャー。
「……ガゥ」
喉をくすぐられ、ゴロゴロと鳴らすのはプリヤアーチャー。
彼らの頭を撫でて撫で、ギルガメッシュは愉しげに赤い瞳を細めている。
あむ、と苺を噛み溢れる果汁を飲んで、続く酒に酔う。人型の獣の喉を撫で、愉悦にギルガメッシュは笑っていた。
「蜂蜜酒がまるで果実酒のようだ。……美味いな」
「英雄王は甘味をお望みと?」
「もう一口いかがかね」
「アゥ」
足を組みかえればそっと足椅子を誰かが置く。
「ふむ、柔らかい。天上の絹で仕立てたとあればさすがか」
「貴方が褒めるのは珍しい」
「芳醇な酒の匂いだ」
「アアゥ、」
まるで洗脳されたかのようにギルガメッシュに従うアーチャーたち。傅き、跪き、……愛を乞う?
「ははははは! 愉しいな、……なァ?」
「そうですか、英雄王」
「そうだ、こんなにも愉しいのは……は?」
「ほほう」
がしゃん。
「そんなにも愉しいのですか。……だらしなく顔を緩めて」
にこ、と笑う騎士王。セイバー、は。
しかし、目が笑っていなかった。
手には安心と安定のエクスカリバー。
「一気に斬首ですか? それともじわじわと体を切り刻みますか? それとも?」
「……セイバーではないか。貴様もこの宴に混ざ」
「りません。貴方を片付けて、シロウたちを連れて帰ります」
ますっ、と笑顔を向け。
セイバーは剣を構える。
「おい、セイバー?」
「問答無用」
エクスッ、
「カリバ――――!!」
じゅっ。
真っ直ぐに放たれた光の剣筋は、綺麗にギルガメッシュだけを焼いた。
きょとん、とするアーチャーたち(ひとりのみ目隠しなので目線はわからなかったが)に打って変わった華やかな笑顔をセイバーは向けて。
「さあ、帰りましょうシロウ?」
「…………」
「…………」
「……ガゥ?」
「か、え、り、ましょうっ?」
にこっ、と笑ったセイバーの足元に焦げた白い指、と言った矛盾したものが這って。
「……待て。我はまだ生きておるぞセイバー。フェイカーたちとの宴に貴様も混ざ」
「りません。まだ生きていたのですか、英雄王」
しぶといですね、とセイバーは舌打ちをして。
「エクスカリバー! カリバー! カリバー! カリバー!」
うわあ。
連打される光の剣筋に、三人のアーチャーたちは怯える。
ぴちゃぴちゃとセイバーの白い頬に付く真っ赤な鮮血。
高らかな笑い声は、それでも止むことはなかったのだった。
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