「■■■」
「……そうだな。私の前でも彼女はそうだ」
森の中。
バーサーカーは地面に、アーチャーは切り株に腰掛けて語らう場面を、三人の人物が見ていた。
「あれって話が成立してるのか……?」
「エミヤシロウはこれだから」
「セラ、とりあえず因縁つけるのよくないよ」
「い、因縁など! このわたしが付けるはずがないでしょう! エミヤシロウ、援護なさい!」
「……なんでさ」
衛宮士郎、セラ、リーゼリットことリズ。
ばらばらに見えて奇妙にバランスが取れた三人であった。
「ん……何かまた話してる。ほら、セラ、リズ。イリヤに報告するんだろう?」
「くっ。あなたに指図されるなど屈辱の極みですが……お嬢さまのためなら仕方がありません。使い魔では気付かれてしまいますからね」
「バーサーカー、意外と敏感。アーチャーは鷹の目、やっぱり敏感」
うんうんと頷いているリズ。その頭をぐいっと押し込んで、セラは身を乗り出した。
「セラ。あんまり前に出ると気付かれるぞ」
「わかっています。まったく、エミヤシロウはこれだから」
「今の俺っ!?」
「……うん。そうだな。姉さんはもっと私たちを頼ってくれていいんだ。甘やかしてくれるけれど、本当はもっと甘えてくれていい。そうじゃないと。……そうじゃないと、あまりに姉さんが」
「■■■■■――――」
「だろう? 君もそう思うはずだ。姉さんはもっと楽にしてくれていい。子供だから、というわけではない。大人だから、というわけでもない。たったひとりの彼女として。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして。彼女は、私たちを頼ってくれていいんだよ」
そっと。
ささやくようにアーチャーは言って、己が膝頭に視線を落とす。
そこには絡めあわされた指があって、そこにはぎゅっと。
ぎゅっと、力が込められていた。
「頼ってくれて。――――いいんだ」
口元に浮かぶ笑み。だが、眉は寄せられている。
浮かぶ安らかさと苦渋。それは相反するものだ。矛盾するものだ。
けれど容易くそれはアーチャーの顔に浮かぶ。
「■■■――――」
バーサーカーが唸りを上げる。それにはっとしたようにアーチャーが顔を上げた。
「うん」
ふるふると、アーチャーは左右に首を振った。
そうして笑う。眉間の皺もそのままに。
「そうだな。私がこんな有り様では、彼女も安心して己を任せられれはしない」
当たり前に感情が滲んだ、声だった。
鉄の、そして硝子の心を持つ彼らしくない。
有機物の感情を持った、それは声だった。
「私はね。彼女が好きだよ」
わらう。
心から、彼は。
「■■■」
同意する。
心から、彼は。
素直でない彼、狂化していることで理性を持たぬ彼。
そんな彼らが、たったひとりの少女のことで繋がる。
彼女。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
白く長い髪を持ち、赤い瞳を輝かせる幼い風貌の大人びた少女だ。
「私を好いてくれているからではない。そんな理由からではない。私は彼女が私をどう思おうと彼女が好きだ。姉さん。私の姉さん。……オレの、姉さん」
ほっと。
ため息をつくように、彼は彼女のことを口にした。
「……セラ」
「何ですかエミヤシロ――――!?」
手を引かれたことにセラは動揺し、顔を俄かに赤くする。それに構わず士郎は手を引き、彼女を立ち上がらせようと促した。
「もう行こう。――――これから先は、俺たちが見ていいものじゃないよ」
「な、何ですか、わたしに命令をするつもりですかエミヤシロウ! リーゼリット、あなたからも一言……」
「うん、もうこれ以上見てるのよくない。帰ろう? セラ。イリヤには言っておけばいいよ」
アーチャーとバーサーカーは仲良しでしたって。
リズも士郎に手を貸す。規格外の彼女の力にセラの口から悲鳴が上がった。
「ん?」
「■■■……?」
二騎が不思議そうな声を上げたのは、また別の話。
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