「正直、私もそう思う」
「ですよね! アーチャーさんもそう思いますよね!」
おっと。
居間に、不思議な顔合わせを見つけた。
買い物帰りの士郎はアーチャーと桜、といった取り合わせを見つけて、買い物袋を持ったまま会話に耳を傾ける。
「すっごくすっごくもう! あ、って思った時、すっごくかわいいなあって!」
「ああ、そうだな……あのうっかりさ加減がまた……」
「ですよね! 完璧に見せかけて駄目駄目なところがかわいいんですっ!」
え。
まさかそれは。
「姉さんは」
「凛は」


「本当にかわいい!」


やっぱりねー。
ですよねー。
いや話の文脈から気付いてはいたんですよ。でもまさかあのあかいあくま、遠坂凛のことについて堂々と居間でかわいいだの何だのと会話しているとは、思いもよらなかったわけですよ、ええ。
「わたしのアーチャー、わたしのアーチャーって言われるアーチャーさんが正直羨ましいです」
「いやいや。桜、君もかわいい妹として大事にされているではないか。私としても羨ましいぞ?」
「いえいえアーチャーさんこそ」
「桜こそ」
「…………」
「…………」
「それにしても」
「凛はかわいいな……」
なにこのあかいあくま厨ふたり。しかも何ですか、その、あの、「おばかかわいい」略して「おばかわいい」レベルのかわいがり方をしてますよね。
ガンドですよ。バレたらガンドですよ。いや、士郎が。
八つ当たりガンドですよ。はっきり言ってアーチャーと桜は凛のお気に入りもお気に入りですからね。そんなふたりに凛がガンドれるわけがありませんからね。自然と士郎さんに八つ当たりが来るんですよキャー!
……解せぬ。
「今度姉さんにプレゼントをしようと思ってるんです。ケーキとかを焼いて……苺をいっぱい乗せた!」
「そうだな。ならば私はそれに添える紅茶を煎れるとしよう。ロイヤルミルクティーなどが凛の好みかな?」
「はぁ……やっぱりよくわかってますよね、アーチャーさん。さすが姉さんのサーヴァントです」
「桜こそ、凛が苺のケーキを好きだというのを知っていたじゃないか」
「そんなの、一緒にケーキを食べに行ったりしていればわかります」
「私とて、共に生活していればわかるさ」
「あ。いいな、わたしも姉さんと一緒に朝ご飯食べたりしてみたいです」
「それなら近いうちに泊まりに来るといい。客室は整備してある、それとも凛の部屋に一緒に泊まるかね?」
「わ、もしかしてそれって姉さんと一緒のベッドに寝られたり出来るってことです……か?」
「そうなるかな」
「わ、わ、わ、わたしっ、寝相あんまりよくないかもしれませんしっ、姉さんの邪魔になるかもしれませんしっ、」
「桜」
言って、アーチャーは微笑む。
そうして告げた。
「妹を邪魔に思う姉などいない。それに何より君のことを、彼女は大事に思っているはずさ」
「わた、しのこと、なんて……」
わたしのことなんかよりアーチャーさんのことを。
顔を見上げた桜は、はっとした顔をする。
「どうして」
どうして、そんなに優しく笑えるんですか。
言った桜は気付いていた。
好きだからだ。
アーチャーが、凛のことを。
しかしそれは恋愛感情ではなく、友愛的、あるいは敬愛的感情として。
大事に、大事に。
桜と同じように、想っているのだ。
「なんだ……」
安堵して、士郎は居間を後にしようとする。その肩が、ぽんと叩かれた。
「衛宮くん?」
ヒッ。
「わたしのアーチャーと桜を見つめて……一体何をしているのかしら?」
聞いてもいい?
振り返った視線の先には、あかいあくま。
キャー!
だから八つ当たりが来るって言ったじゃないですかー!!



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