「俺の方が好きだ!」
「いや、私の方が好きだ」
「あれ何やってるの?」
「好きな相手自慢対決だと」
「へえ……え?」
凛が煎餅を咥えたままランサーへと振り返る。今、何を言ったのかと。
「ちなみに今はエミヤキリツグの話題らしい。さっきまではセイバーと嬢ちゃんの話題をしきりに繰り返してたぜ」
「ちょっ」
何なのよそれ!早く知らせなさいよもったいない!
ランサーの胸ぐらを掴み上げて言い放ちたくなった凛だったが、優雅ではないのでやめておいた。
「エミヤキリツグ……衛宮切嗣、ね。士郎の義父さん、だっけ?」
「だな。オレの義父さんでも」
「はいはい。えーと? 士郎とアーチャーの元になった人よね」
それをしきりに好きだの何だのと繰り返しているのか。
セイバーと自分の時も同じだったのだろうか。
考えると頭が痛くなる。全く馬鹿野郎たちだ。
遠坂家の人間としてのみならず、女子としてどうかという発言をしたかもしれないが本心である。仕方ない。
「爺さんは俺の目標なんだ! 正義の味方になるって誓ったんだから!」
「私とて同じだ。爺さんは私の存在理由でもある。爺さんがいなければ私という英霊は産まれなかっただろうからな」
「……なんかすげぇ」
イライラする、とランサーがつぶやいて、凛はあらランサーったらお気の毒ウフフ、と勝者の笑みを見せていた。
前に自分とセイバーのことが議論されていたからだ、という前提があっての勝者の笑みである。
それにしたって、エミヤシロウたちは本当に大馬鹿者だ。
そんなところが、とても可愛い。
「馬鹿ね」
「ん?」
「何でもない」
そっとつぶやいた凛に、ランサーが不思議そうな顔をした。
ぱりん、と凛は咥えたままだった煎餅を噛み砕く。
鼻腔を抜けて醤油の香ばしさが広がった。
久々に今夜は士郎とアーチャーの作った和食が食べたい、と凛はふと思った。
爺さんとやら、衛宮切嗣にも彼らはきっと料理を作ったのだろう。凛が彼らを知らない時から。
そう考えると羨ましい。
そしてまた、微笑ましかった。
「何かよ、嫉妬しちまうな」
「は?」
「セイバーにエミヤキリツグに嬢ちゃん。オレは一体どれだけの相手に妬けばいいのかね」
「……ランサー」
「あ?」
「あんた、もしかして意外と純情?」
「は……?」
ランサーの眉が盛大に寄せられて。
「そんなわけねえだろ」
言ったその頬が、少し赤かったのを凛は見逃さなかった。
噴きだした凛に、ランサーがぎょっとしたような顔をする。
「何だよ嬢ちゃん!?」
「あ、はは、いえ、何でもないわ、あはは、ははは、」
笑いが止まらない。あのクランの猛犬が嫉妬などと。
しかもそれを自分のような小娘に見抜かれて顔を赤くしている。
全く、これで笑わないなんて嘘だ。
絶対に、嘘。
身を折って笑っている凛を、ランサーはぶすっとした顔で見ている。その視線を感じる。
だから、余計に笑いが止まらない。
「ふ、ふふ、あはは、あははは、」
「……笑いすぎだと思うんだが、嬢ちゃんよ」
「ごめん、ごめんなさい? でもね、あはは、あははは!」
爆笑してしまった凛に、ランサーはげんなりとした顔をした。
「オレだって妬くさ。妬いて悪いか」
「悪くない、悪くないわよ、そうね、そうねえ!」
「……絶対思ってねえだろ、嬢ちゃん」
ばしばしとランサーの背中を叩いて爆笑する凛に、苦虫を噛み潰したような顔のランサー。
士郎とアーチャーの言い合いは続いている。
凛は楽しくて楽しくて仕方ない。
後でセイバーにこのことを教えてやらなければ。
そう思って、凛はしっかりとふたりの会話を脳裏に刻み込み始めた。



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