――――キィィィン。
甲高く澄んだ音が響き渡り、夜を裂く。
赤と青の光はひどく目まぐるしく宙を飛び交い度々空の星を隠した。
「は! その程度かよ、弓兵!」
「まさか、侮ってもらっては困るな槍兵!」
高揚したふたつの声。それは欲情を隠すことなく含んでいて、もしも聞いた者がいればその淫らさに感じ入っただろう。
けれど聞く者はいない。何故ならその戦いは人には見えぬところで行われていて、もし見えたとしてもとても認識できなかったから。
「……チ!」
青い影、槍兵と呼ばれた者が舌打ちをする。だがそれはこの状況に不満を感じるものではなく――――いや、違うのかもしれない。
「もっとだ、もっとだ弓兵! 命の限りを尽くしてこのオレにかかってこい!」
叫んだ声は喜悦と怒り、相反するものに満ちていた。その声は戦いに高揚していながら、もっとその先まで行けるはずだという苛立ちを感じて発されたものだった。
一方弓兵と呼ばれた赤い影は口元に笑みを浮かべると、両手にした二対の剣を振りかぶった。ぞっとするほどの殺気が大柄な体躯からは立ち昇る。
「貴様こそ力の限り私に向かって来たらどうだ! まだまだ貴様の戦い方は甘い、それでは眠くなって仕方ないぞ!」
「――――言ったな」
「――――言ったとも」
愉悦、瞬間の怒号と共に剣戟が夜の空に響き渡った。
槍の穂先と剣の切っ先が噛みあう。それと同時に槍兵の素早い回し蹴りが弓兵を襲い、彼の体は大きく吹っ飛ばされる。だが空中ですぐ体勢を整え、コンクリートの上に着地した。
しかし猛攻は止まらない。連続して突きだされた槍の穂先を弓兵は間一髪のところでかわしていく。一瞬間に合わずに褐色の頬を穂先が傷つけるが、あとは白銀の髪を数本さらったのみだった。
今度は弓兵が攻勢に出る。槍兵に向かって走っていきながら攻撃の要と見える二対の剣を手放し、円を描くように投げたのだ。
そのまま攻勢は止まらず、弓兵の口元は何かをつぶやき続ける。するとその手の中に捩じれたひとふりの剣が現れ、また現れた弓に番え彼はそれを槍兵に向けて射た。
「…………!」
赤光をまとったそれは一直線に槍兵へと突き進んでいく。槍兵の赤い瞳が一瞬何かを判断するような動きを見せたが彼は、それを足場にするように高く飛んで避けた。
「馬鹿が!」
すると途端に弓兵が嗤いを見せる。その反応通り剣は軌道を無理矢理に変えて、槍兵に襲いかかってきたのだ。
――――ギン!
「……何!?」
背に回した槍で剣を弾いた槍兵が獰猛に犬歯を見せて笑う。そうして体を半回転させて一転、無防備になった弓兵の胸元を突いてきた。
「く!」
弓兵は苦悶の声を漏らすと身を仰け反らせてそれをかわした。そこに、
「――――!」
格闘術としては初歩の足払いを受け、弓兵は無様にコンクリートの上に転がった。くそっ、と彼にしてはらしくない罵声を吐いて復帰をするために立ち上がろうとして、そして。
「……チェックメイトだ」
完全に無防備になった弓兵の喉下に、槍の穂先が突きつけられた。
「…………」
沈黙。そして、沈黙。
しばらく恋人のように見つめあってから、弓兵はそろそろと両手を上げた。
「は。いいザマだ」
槍兵はそれを見て心底満足げに微笑む。いっそ優しいといえた、それは、笑みだった。
「で? オレはてめえを殺しても?」
「結果、そうなるのだろうな。敗者はただ散るのみ、だ」
「だがそれがオレは惜しい」
「何?」
怪訝な顔をして弓兵がたずねる。それに槍兵は槍の穂先を下ろして、
「犯させろ。てめえを一度きりで殺すにゃ惜しい」
とんでもないと言えた提案にも、弓兵の表情は崩れることはなかった。ただ、上げた両手もそのままに、
「貴様にそんな趣味があったとは知らなかったな、槍兵」
「そこだ。オレも自分にこんな趣味があっただなんて今の今まで知らずにいた」
――――それで?
「オレの要望は通るのかね?」
どこか茶目っ気を見せて、けれど芯は酷薄に問いかけた槍兵に、弓兵は沈黙してから。
「……私も気が変わった。今ここで死なずに済むのなら我がマスターのためにそうしたい。提案を受けさせてもらうよ、槍兵」
とんでもない提案に、とんでもない返答を、返したのだった。
「……んんっ……ふ、は、あ……」
コンクリートにぽたぽたと落ちる体液。
後ろ向きに弓兵を組み伏せながら、槍兵はその体を弄んでいた。
「ハッ……随分と慣れた様子じゃねえか。その様だと、てめえ経験でもあるのか?」
「んんふ……っ、余計な、ことは、口にしたくない主義でね……っ」
それに慣れている方がいいだろう?
喘ぎ混じりにそう言った弓兵に、槍兵はだがつまらなそうな表情を見せる。
「さてね。世の中にゃそういう男が多いのかも知れねえが、オレは生憎と違ってる」
「んあ!」
突然最奥に指を挿しこまれ、弓兵が大きく身を仰け反らせる。細かくびくびくと震える体を愉しむように、槍兵の白くたおやかであるとさえ言える指は、その最奥をまさぐった。
指は初めは一本、次は二本。
三本に増やされる頃になると弓兵の褐色の肌は、うっすらとした赤味を帯びていた。
それを見て槍兵は目を細め、満足そうに舌なめずりをする。
「翻弄されてるって様がいいな。……そろそろか?」
ずるりと抜きだされた指に、弓兵の体がびくりと震える。その割合に細い腰を掴んで、槍兵は弓兵に身を寄せた。
「――――行くぜ。いいか、舌噛まねえように気をつけてな」
「あ…………っ、あああっ、ああはっ!」
手加減なく突き込まれた性器に、弓兵はあからさまに反応する。奥まで飲み込まれていく自身に槍兵は喉を鳴らし、あろうことか弓兵のうなじにくちづけまでしてみせた。
「いい……ぜ。予想以上だ、てめえ」
「っ、くは、んんっ、はあっ、」
聞く者のないと言っても、それはあまりに憚りのない嬌声だった。慣れている……その言葉は真実だったのか、否か。ともかく弓兵は、強くきつく突き込まれる槍兵自身に身悶え、喘いだ。
まるでぬかるみを踏み荒らすような音がし、点々とコンクリートは色を濃くしていく。
体と体のぶつかりあう音、しかしふたりにより強い快楽をもたらしているのは彼ら自身を構成しているエーテル体の交わりの方だった。
「ふっ、はあ……あんっ、あはっ、ああっ、」
「……チ」
先刻の殺し合いの際につぶやいた言葉と同じような、けれど違った言葉を吐いて、槍兵は弓兵にいっそう腰を強く打ちつけた。そして、腹の奥に渦巻くものをその内に解き放つ。
「――――!」
瞬間、声なく弓兵も達した。唇を噛んで何かに耐えるように、だが体は崩落してしまっていた。
……はあ、はあ、はあ、はあ、
ふたつぶんの荒い息が重なり、弓兵が崩れ落ちたのと同時に槍兵もその上に崩れ落ちる。達したばかりの弓兵の体は、槍兵が吐く熱い息にも感じてしまっていて、何度も未だ自らの内にいる槍兵自身を締めつけてしまっていた。
……はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。
「……重い……」
「……我慢しろ」
言って槍兵は弓兵のあらわになった耳朶に噛みつく。と、弓兵はどこか慌てたように、
「貴様――――まだ!?」
「馬鹿が。一度で満足すると思ってんのかよ、このたわけ」
しばし弓兵は抵抗する様子を見せていたが、その抵抗は時が経つうちにぐずぐずに溶けてしまっていた。絡みあう体は粘着質な音を立て、半ばおざなりになったように交わり始める。
だがそんな様子はすぐに薄れていき、ふたりともいつしか本気になって幾度とも知れない行為に溺れていったのだった――――。
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