「どうしようランサー。私の回路がショート寸前なのだ」
「…………は?」
そう言うしかなかった。今のところは。
居間で新聞を読んでいたランサーは大真面目で切りだしてきたアーチャーを見て、まず高熱を疑った。だがしかしサーヴァントは風邪を引かない。そういうところは便利な体である。
だが、しかし。
けれど、アーチャーは自分と何か違うのかもしれない、とランサーは思ったりしてみた。なにせ磨耗したり武器をずんどこ生みだしたり、ランサーとあまりにも違うのがアーチャーだ。同じエーテル体で作られていても、大元が一緒でも、どこか違うところがあるのかもしれない。
なのでランサーは聞いてみた。
「……回路って、どんな」
「……恥ずかしい話だが、その……」
乙女回路が。
恥ずかしがるアーチャーは内心ちょっとイイなと思ったのだが、口にされた単語があまりにも理解不能だった。乙女回路?なんだそれは。魔術回路とはまた違うのか?きっとたぶんそうだろう。
「で……その、乙女回路? ってのは、」
なんなんだ。
と聞こうとしたところで、ランサーは口をつぐんだ。
ヨかったからである。うつむいて頬を赤く染めたアーチャーの様子が。その様が。
こっちまでなんだか恥らうことになりかねないほどのいい恥じらいっぷりだった。
180越えの男がするにはどうかと思うと言う者もいたかもしれないが、ランサーにとっては無問題だった。美味しくいただきました。
もうなんかどうでもよくなって残さずいただいちゃおうかとも思ったのだが、せっかくアーチャーが自分を頼って秘密らしきものを打ち明けてくれたのだから、それは不誠実だとランサーはすんでのところで踏みとどまった。オレ偉い、などと思ってはみるが当然のことである。喰っちゃう方がアレなのだ。
「上手く説明できないのだが……私の心臓とは別の稼動源にその回路は走っている。それが最近思わしくないのだ、自分でコントロールできん。たとえば今すぐ君に会いたくなったり、泣きたくなるようなミッドナイトがあったり……」
なるほど、乙女とはそういう感じのことか。
この辺でさらに可愛い立ち絵、たとえば拗ね顔だか照れ顔だとか。が出ていたらランサーは間違いなく、目の前でどこかで聞いたようなことを言う男を押し倒していた。踏みとどまれたのは乙女回路とか言う奴をいきなりがっつり押し倒したらまずいことになるかもしれないなー、という心の奥に残った良心を総動員したからだ。
それにショート寸前だとか言っているし、なんだかいきなりがっつり押し倒したら炉心融解でもしてまずいことになりかねない。もしも壊れられたら一体どこのサービスセンターに持っていけばいいのか。まずサポートセンターの電話番号をランサーは知らない。
「ランサー……」
「はい!?」
突然後ろ暗いところを突かれたようにランサーは大声を上げた。実際後ろ暗いのかもしれないが、寸前で踏みとどまっているので問題はない。はずだ。
「回路が暴走を始めてから……君を見ているとなんだかせつなくてたまらない。どうしてだかわかるか?」
「え……?」
「はっきりとは恥ずかしくて言えないが…………なの、だと思う」
ぼそぼそと小さくて、しかもうつむいているのでその声はよく聞こえない。けれど流れからわかった。察した。
すき なのだ。
これはもういただいてしまうしかないだろう!
「ああっ、ランサー!?」
「アーチャー!」
いやよいやよもとあるが、すきよすきよなら問題はなし!さらになし!
けれどアーチャーは形ばかりの抵抗をしてみせる。それがランサーを煽るとも知らないで。
アーチャーだって乙女回路を持っていても男だ、わかるだろう。つまりこれは誘い込むための撒き餌!
「おとなしくしてな、悪いようにはしねえ!」
その撒き餌にまんまと喰らいついたランサーは興奮に声を荒げてアーチャーの腕を押さえつける。形ばかりの抵抗は続いているが、アーチャーほどのサーヴァントであれば本気を出せば脱することができるだろう。ということは、「いい」のだ。
「あっ!?」
びくん、とアーチャーの体が跳ねる。触れられた箇所を鋼色の瞳が見た、ところで。
「―――――ッ」
アーチャーの抵抗が止んだ。それはあまりにも急で、ランサーが多少訝しげに思ったときだ。
「ラン、サー」
「……どうした?」
「その、わがままを言って、すまないが、」
―――――はじめては……こんな場所ではなく―――――
アーチャーのシャツをまくり上げようとしていたランサーの手が止まった。アーチャーはじっとそんなランサーを見つめている。
強い意志を持ったその瞳。
ランサーはシャツの布地から手を離し、ぽりぽりと頭を掻くと。
「……どこがいい?」
こういうところ、しっかりしてるよな。
苦笑しながら、言いよどむアーチャーから“理想のシチュエーション”を聞きだし始めたランサーは、乙女というものの結構したたかな一面を知るのだった。
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