私のかつての友人は、最近何かと不機嫌だ。
「ほら、食事ができたぞ。支度を手伝わないのだからせめてテーブルに布巾くらいかけてくれ」
「なんだよ、うるさいな。……まったくもう、」
それもこれも桜の奴が、などとぶちぶちと言いながら彼は私が手渡した布巾を受け取った。広く長いテーブルを、彼はそうして案外几帳面に拭き上げていく。
間桐慎二。それが、かつての私の友人であり、今の私の世話焼き対象だ。
「人参を残すな。栄養がきちんと摂れないぞ」
「嫌いなんだよ、人参。変に甘いし、なのに苦いし」
「そういう味なんだ。残さず食べなさい」
つい親のような口調になり、少しそれをおかしく思う。過去には同い年だったのに今は私の方が年上で。親というよりは兄かもしれなかったが、私が、彼の、世話を焼く立場というのは決して変わらないことだった。
「なに笑ってんだよ」
……アーチャー、と言い慣れない様子で彼は私の名前を呼ぶ。えみや。以前に彼は私のことをそう呼んだ。
しかし今、彼が私のことをそう呼ぶことはないだろう、決して。
私はそうして自分のことを隠して、素性さえ最低限しか言わないで、何となくでもないが彼の隣にいる。衛宮士郎の関係者であるとただそれだけを彼には伝えた。そう言っておけば疑り深い彼が信用することを知っていて。
私はずるい。
ずるいけれど、彼を放っておけないのだから、仕方ない。
「ライダーも衛宮の家にこもりっきりでさ、ほんとしょうがないよなぁ」
「とは言っても君ももういい加減大人なのだから、家事くらい自分でできなくてどうする。このままこの家の中で独りでいれば、やがて最後は餓死してしまうぞ」
「なんだよ、うるさいなあ」
「それは君の口癖かね? ならば直した方がいいぞ」
「む……」
すると彼は押し黙ってしまう。ああ、もう、本当に子供だ。
「……なに笑ってるんだよ!」
「いや、済まない。つい、な」
「つい、ってなんだよ、つい、って! 失礼だろ!」
「失礼な笑いではないからいいのだよ」
「へりくつ言うな!」
得体の知れない奴のくせに!と叫ぶ彼。私はほほう、とわざとらしく目を細め腕を組んだ。
「ならば、得体の知れない私は消えるとするか。その方が君もすっきりするだろう?」
「、っ」
彼の顔が赤くなる。
「――――仕方ないなあ! 特別に許してやってもいいよ、だから僕の傍にいてずっと世話を焼くんだ、いいなアーチャー?」
ずっと。
それは果たしていつまでのことだろうか?
「了解した」
けれど私は答える。笑ったまま。
このような気分になったのは久しぶりだった。たのしい、というのだろうか、これを。
「…………」
「どうしたのかね?」
「べ、別に」
なんでもないね!
「?」
そう言うのなら、そうなのだろう。
「しかし君、妹を怒らせてしまったのなら早く謝りに行った方がよくはないか? 時間が経てばますます仲はこじれるばかりだぞ?」
「ふん! あんな奴いてもいなくても変わらないからいいんだよ。家事係はおまえがいるし」
「いいことはないだろうに……というか、君は素直ではないな」
昔からそうだったろうか?
そうだったな。うん。
「アーチャー! いいから早く食後のデザートの用意をしろよ! もちろん」
「プリンだろう? 君の好みはここ数日で熟知している」
「おっ、おまえにしてはなかなかの心がけじゃないか」
褒めてやってもいい。
彼がそう言うので、
「君のことなら大体は知っているよ」
こちらもそう返すと、またも彼は黙ってしまった。何故だろう?先程から、彼と上手く会話が進まない。
「君、どこか具合でも……」
「うるさいなあ! いいから! 早く支度しろよ!」
怒鳴られたので、肩を竦めた。まったく、彼が私のマスターだったならさぞかし苦労したことだろうな。
「わかっているから、そう声を荒げるな」
用意したエプロンを外しながら台所へと向かう。背中を向けた彼は小声で何かぶつぶつと、
「認めないぞ……僕が……そんな……」
なにかしらを言っていたけれど、よく聞こえなかったし意味もわからなかったので追究せずにおいた。
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