「ちょっとアーチャー、出てきなさいよ……、ねえ士郎、あんたからも言ってちょうだい」
「なんでさ! 原因作ったのは遠坂と桜だろ、だったら自分たちで何とかしなきゃ駄目だ」
「先輩、そんなこと言うなんてひどいです! わたしたちはただ単に自分の萌えを追究して――――」
居間で遠坂姉妹と衛宮士郎が喧々囂々の大騒ぎ。そこにバイト帰りのランサーがひょいと顔を出した。
「たでーまーっと。……ん? おい坊主、随分と派手な騒ぎだが、一体どうした?」
「あっ! ちょうどよかったランサー、あんたからもアーチャーに言ってちょうだい、いい加減に出てきなさいって!」
「そうですランサーさん、アーチャーさんに言ってあげてください! 自分の殻に閉じこもるのはよくないって!」
「……坊主。まったく意味がわからねえんだが」
「……話すと長いが、いいか?」


あるうららかな春の日。居間に連れ立ってやってきた遠坂姉妹は、やけに上機嫌だった。ふんふんと鼻歌まで歌いだしそうなその機嫌の良さに新聞を読んでいたアーチャーが顔を上げてたずねる。
「凛に桜。何かいいことでも?」
「ふっふっふー。いいことなんてもんじゃありませんとも!」
「そうですよー、いいことなんてものじゃありません!」
微妙に違うがユニゾンである。アーチャーは怪訝そうな顔を見せた。彼には、女性の心がいまいちわからない。日頃主夫と呼ばれる立場ではあったが女心というものまでは理解できないのである、ていうか乙女回路ついてるけど結局は男だし。
「……冊子、か?」
「駄目よー読んじゃ。まだ完成前だし、読んだが最後あんた自害しそうだから」
「聞いているだけで物騒な話だなそれは」
「そうですよー、アーチャーさんの硝子のハートが粉々です!」
こなごななのか。
それは穏やかじゃないなとじっとり視線のアーチャーとは裏腹に、遠坂姉妹はウキウキである。頬まで染めて、見るところだけ見たらばちょっと誤解しそうなう。
その冊子はどうやらコンビニかどこかコピーしたものを束ねたもののようで、パチパチと片側をホッチキスで止めてあった。表紙に書かれた文字は――――
「“英霊エミヤ 愛の記録”?」
「だから見ちゃ駄目だったら! 言うこと聞きなさい、でないと令呪使うわよ」
「ますます物騒だな……というか令呪をそんなことに使うな、凛」
「わたしは影で縛っちゃいます! 緊縛プレイです、うふふ」
プレイってゆーな。
「…………」
じっとり。
「あっ!」
ばっ!と敏捷値が低い割には素早く、アーチャーはその冊子をもぎ取った。何か警報が彼の中で発令されたのかもしれない。
「駄目よアーチャー! やめなさい!」
「そうですっ! 本人禁、ですっ!」
すこぶるぱわふる物騒な言葉にもかまわず、アーチャーは冊子をぺらぺらとめくっていく。いちまーい、にまーい、さんまーい。
「――――」
時が。
およそ冊子の半分辺りまでを見たところで、止まった。
ぶっちゃけ手遅れだったのである。


「へえ、嬢ちゃんたち漫画や小説? なんての書くんだな」
「趣味だけどね。本業にする気はないわ」
こういうのは趣味だから楽しいんじゃない!と凛。こくこくと桜も同意している。士郎は心底同情します、といった顔つきだ。
「だからって人を勝手に妄想の材料にするのはどうかと思うぞ……それも、その、過激な?」
「やだ! あんなのまだただの入り口よ!」
「そうです先輩! 奥底はもっと深いんです!」
どんだけ深いのかは知らねえけどねえ。
「それ、オレが見ても問題ねえ?」
「うーん……どうかしらね」
「ランサーさんも登場してますしね。アウトなんじゃないですか? 姉さん」
「あ、オレ出してくれてんだ」
にっかり、と何故だか嬉しそうに笑うランサー。ますます同情の面持ちの士郎。
「だってあんたとアーチャーの恋物語だもの。出さないでどうすんのよ」
「片方が欠けるなんてありえませんっ! ふたりは対なんですっ、運命で結ばれた絆なんですっ!」
ぐっ、と握りこぶしの桜。凛はところで、とランサーに持ちかける。
「それなりの報酬は出すから……もしいいネタあれば、リークしてくれない?」
「というかっ、ですねっ! 結局のところ、アーチャーさんとランサーさんは、どうなんですかっ!?」
「へ?」
凛、桜、士郎、三人の視線がランサーに集まる。ランサーは頭をぽりぽり掻きながらんー、と考えて。
「ま、ご想像にお任せしますってこった」
「マジで!?」
「きゃー!!」
「…………」
一気に色めき立つ遠坂姉妹とは裏腹に、士郎は同情の極み、という顔になった。
そうして先程から固有結界にこもってしまったアーチャーに向けて、おーい、と呼びかける。


「あー……こうなったらしばらくそこにいた方がいいぞ、アーチャー。外に出たらもっと傷つくことになりかねないし」
まるで突き放すような言い方だったが、そこは同じエミヤ。
アーチャーのことを思っての、それは、まごころだったのである。


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