「だからやめろって! 無茶すんな! つーかオレが嬢ちゃんたちに殺される!」
衛宮邸に響き渡るランサーの絶叫。
それにさらりとさらしで破裂しそうな胸元を押さえつけたアーチャー(女性化している)は返した。無茶?殺される?一体何故。
まったく事態をわかっていない顔だった。というか、その手には夫婦剣。物騒なことこの上ない。
ギリギリギリギリギリギギギ。
白い顔を青くして騒ぐランサーの後ろで、歯軋りの音が響き渡った。
つまりはこういうことだ。


事の始まりはキャスターのノリでのお呪い。前々から目をつけてたのよ!と彼女は言ったが迷惑この上ねえのである。
果たしてアーチャーは女性になった。ぼいんぼいんのむっちむちの、非常にそそるナイスバディに。
ランサーは喜んだ。元々女の子が大好きな英雄である、そしてアーチャーも大好きだ。ということは愛するアーチャーが女性化してしまえば、何も問題はない。パライソ!である。
だが、問題はあったのだ、実は。
ひとつはアーチャーを好きな者たちはランサーだけではなかったこと。
もうひとつはアーチャーが超合理主義者だったことだ。
“戦うのにこの胸は邪魔だな――――ちょうどいい、片方削いでしまおう”
なんてこというのおまえ!?
慌てたのはランサーである。理想的ナイスバディの片胸を削ぐなんて!ありえないつーかぶっちゃけありえない!そして女性陣は言った。
“ランサー……あんたが甲斐性なしだからこんなことになるのよ?”
なんでさ。
とは衛宮士郎の名言であるが、そのときは思わずランサーの口からこぼれでた。
アイルランドの光の御子を甲斐性なし呼ばわりした遠坂凛はあかいあくまの迫力充分でてゆーか、と微笑んだ。赤いオーラが超絶おそろしい。
“わたしのアーチャーのナイスバディを損なうなんて世界的損失よ、大損害だわ。それもこれも、あんたがアーチャーをしっかりつなぎとめてなかったから”
いやそれおかしいから!変だから絶対!おかしいですから遠坂さん!
つい敬語になってしまったランサーだったが、正面の凛に気を取られていたことで背後のセイバーに気づかずにいた。
“ランサー……わたしも凛と同意見です。アーチャーの体は美しい。それを彼自身が自分から捨てる選択をするなど、日頃から傍にいたあなたがしっかりしていなかったからですよ?”
え。
“確かにわたしも同意見です。ランサーさん? 女の子の心ってとっても揺らぎやすくて、ちょっとしたことですぐ傾いちゃうんです。疑うわけじゃありませんがランサーさんがしっかりしてなかったからアーチャーさん、こんな思考に走っちゃったんじゃないですか?”
そしてさらに、桜。
“え――――おい、いや、おかしいって。それ絶対おかしいって――――なあライダー!? おまえもそう思うよな!?”
妖艶な蛇、サーヴァント・ライダーは沈黙してしばらくじっ、と桜の後ろからランサーの顔を見つめ、
“わたしは――――サクラと同意見、ですね”
“うおおおおおい!!”
もっと持とうぜ自分の意見、である。流されるのかっこわるい。
“結局、ランサーが死ねばいいのよ”
“なにその極論!? つーかオレに厳しすぎやしませんかお義姉さま!?”
最後、きっぱりと〆たイリヤに思わず絶叫したランサーだったが、彼女の反応は冷たかった。さすが冬の聖女モデル。ぷいっとそっぽを向いて、それっきりランサーの方を見向きもしない。
士郎はその場に運悪く――――というか運良く――――おらず、ランサーは女性陣の中で完全に孤立した。あれ?これって死亡フラグ?
“ランサー、何を慌てているのだね。私が自分の片胸を削ぐという決断をしたのに君はまったく関係ない。私自身が決めたことだ”
それも『君は私にまったくもって関係ない』と言われたのと同じくらいのダメージで、地味にこう、辛かった。
かといって『これは君のせいなのだよ、ああ全部君のせいだとも!』だとか言われてもダメージだっただろうけど。
“アーチャー、考え直しなさい! その青い駄犬はわたしたちがしっかり躾けておくから!”
“そうですアーチャー! あなたのその魅力的な肢体が失われるのはあまりにも惜しい!”
“アーチャーさん、こんなにわたしたちが言っても駄目ですか? やっぱりランサーさんが……”
“アーチャー!”
ぎゅいっ。
ライダーを除く四人分の鋭い視線に射抜かれ、さすがにランサーもヒギィとなった。ライダーは参加していないというのに思わず石化しそうである。
どうするどうするどうするどうする。どうするオレ!?この窮地をどう脱すればいい!?
ぐるぐるぐるぐる、ランサーは考える。思考回路フル回転、普段は使わないところがフル稼動である。
“……もういいかね? こんなものをぶら下げているのも鬱陶しくなってきたところなのだが……”
いやよくない!
四人の少女たちの熱視線、ただし悪い方向に。
ランサーの思考回路は回転しすぎて焦げ付きを見せていた。どうするどうするどうするどうなる!オレ!
そのとき、ぎゅりぎゅりと音を立てていたランサーの思考回路がふと天啓を受け取った。
――――これだあ!
“…………、”
“アーチャー! オレはおまえのその胸に惚れた! だから削ぐなんて殺生なことしねえでくれ……頼む!”
わしづかみである。
ランサー、アーチャーのバストわしづかみである。
そのとき、刻が止まった――――。
アーチャーはきょとんとして自分の胸の一方をわしづかみにしたランサーの手を見て。
しばらく沈黙した後に、
“……そうか、ならば、仕方ない、な”
なんて!
デレた台詞を吐いてくれちゃったりしたのであるコレ!しかも頬染めつきで!
ランサーは呆然としてその光景を見つめていた。天啓は活路を開いてくれた――――それもすこぶる意外な活路を。
やったぜオレ!頑張った!感動した!我ながら惚れる!
ランサーはひとしきり感動に打ち震え、そうして手にした勝利の美酒の味……具体的に言うならボインの感触……に酔った。


“へえ”
へ?
“ランサー……わたしはあなたを、どうやら見くびっていたようです”
なにが?
“ええ。それなりに男らしい英雄さんだと思ってたんですけど……本当は兄さんと同じようなどうしようもないひとだったんですね”
え?え?え?
“さすがにこれはわたしもフォローできかねます……ランサー”
なに?
“覚悟はいいかしら? ランサー”


ぎぎぎぎぎ。
まるでブリキの玩具の駆動音を響かせてランサーが振り返ると、そこには。
宝石剣を構えた凛と、
エクスカリバろうとするセイバーと、
くすくすゴーゴーな桜と、
付き合いでベルレ体勢のライダーと、
魔術回路全開のイリヤがいた、ので、あった。


“ちょっまっ……”
“問答無用”
きれいに五つの声がそろい、アッー!という声と共に英雄、クー・フーリンは座にまでとんでけー!されたのでありました、まる。


フォロー。
とんでけー!されたランサーだったが、なんとか生き汚さで戻ってこられて。
その後にはデレたアーチャーに一ヶ月は看病してもらえたそうな。
どっとはらい。


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