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「おい、アーチャーよ……」
ぎりぎりぎりと音まで聞こえそう。いや、実際に音はしているのかもしれない。目の前の男が立てる、熱く荒い息の音がかき消しているだけで。ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎりと。
「あんまり必死すぎて引くとまではもちろんいかねえが、そりゃどうなんだ? せっかく正面からツラ見られるのが嫌だからってから、こうやって後ろからにしてやっているのに」
答えはない。ただシーツをぎりぎりぎり。
肩を震わせてシーツを食いしばる男を、アーチャーを背後から抱き、ランサーは思考する。試しにゆったりとしたブランケットだけがわずかに覆う腰から臀部にかけてのラインを指先だけで撫で上げる。
「ッ!」
びくん、と一度大きく肩が跳ね上がったがただそれだけ。
ランサーは目を細めてたった今、アーチャーに触れた指先を見る。そうして無言のまま舌をべろり、と出して、
「……、…………ッ、」
まるでアーチャーがランサー自身にするかのように唾液をたっぷりと乗せた舌先でランサーは自らの五指を舐めしゃぶる。今にも唾液が滴りそうな音がして、アーチャーの真っ赤な耳はその音に犯されているかのように細かく、細かく震えた。
「ひ、あ……!」
ぬらり。
当然唾液をたっぷりまぶした指ともなればこんな音さえ錯覚しそうな触感を相手に与えるわけで。
アーチャーのうなじから背筋、ブランケットに隠れたすれすれまでの下肢にランサーはゆっくり指を這わせた。その上で今度は耳にぬるぬると触れ親指と人差し指でこねるように触れる。触れながら、自身の涎の跡が残った褐色の肌を舌でなぞっていく。
たまらずアーチャーはシーツから口を離し一度声を上げてしまったものの、今度はさらに強く、きつくシーツを噛みしめる。
興奮で口の中がじゅくじゅくとするくらい感じ入っているアーチャーのくわえたシーツは薄紫に透けていたが、その必死さから見て血が滲み、薄赤に染まることがないとも言い切れなかった。
「…………」
その強情な態度にランサーは思うところがあったのか。
断続的にびくびくと体を震わせるアーチャーの弱い―――――今では全身がそうではないかと思えるが―――――ところを飽きるほどに舐め回して、ようやく舌を引くと唾液を喉を鳴らし、飲み込んだ。
無言でじっ、と震えるアーチャーを見、ランサーは不意に上半身を屈めた。
「…………!」
かぷり、と。
汗の浮いた首筋にかぶりつき、ランサーはやわやわと、しかし鋭い歯で肉を噛む。
急所への攻撃、というのは性感的な問題もあるが、生命の危機について、本能についても最優先されるべき箇所であった。
すなわち、他の箇所よりも敏感であると。
武人であるアーチャーであるからそれは余計に倍増させられてしまって、シーツを噛んだまま激しく首を左右に振った。
ぱさぱさと乱れる髪がマットレスに擦りつけられて、真っ赤な顔を垂れ落ちる汗と耐え切れず溢れた涎とが染みを作る。
かぷかぷと何度もかぶりつき、時には浅く穴の開いたところを舐めながら、ランサーは耳元で小さくつぶやく。
「アーチャー……恥ずかしい染み、ついてるぜ」
「ッ、!」
言い返せないのをいいことに……ではないだろうが、ランサーは続けてアーチャーの耳元に言葉をつぶやき続ける。そのたびにびくん、びくんと体が跳ね、シーツを握りしめる手に力がこもった。
「〜〜〜〜ッ、」
目を閉じて、眉間に皺を寄せ、きつく。
必死に反応を、息を声を押し殺そうとしているアーチャーに、ランサーの手が伸びた。


「!」


く、と差し込まれた先端も先端な指の先。
先程ぬるぬるとランサーの唾液で濡らされたそれは、抵抗もなくアーチャーの中へと入っていく。
く、く、と焦らすかのように、けれども確実に入ることを望んでいる指先。その証拠に出入りを繰り返しながらもその次は、深く奥まで入っていくのだ。
「…………ッ、……」
アーチャーの体は固くなったが、それでも指は拒まれない。丁寧に、丹念に擦りつけられて緩んだそこと今まで、たった今まで施されていた長い愛撫が指を受け入れてしまう。
幾度か指を抜き差しして最高三本になった指を引き抜くと、ランサーは口端に笑みを浮かべて言った。
「……どこもかしこも、オレのもんだな」
言うが早いかブランケットは取り去られ、褐色の裸体が露わになる。それを隠すことも、逃げることもできない。
「…………ッ、ああああ……ッ!!」
既に準備が整っていたランサー自身を初めから容赦なく奥に突き込まれ、もう声を隠すことなどできない。後ろから獣のように突かれて、アーチャーはなす術もなく喘ぎを上げた。
「あ、ああ、っ、や、は! あ……!」
口端から流れる涎。
顎を伝ってぽたぽたと垂れ落ちるそれはシーツにさらなる染みを作る。その間にもアーチャーは声を上げ続けた。
「ぅあ、は……! あ、あ、っ、」
縋りつくように喘ぐアーチャーに、だがしかしランサーの猛攻は止められることはない。ぽたぽたと落ちる涎の染みの上に、アーチャー自身から零れた粘りが落ちて、生地に広がっていった。
体のぶつかりあう音、荒い息。意味をなさない喘ぎをなりふり構わず上げ続けていたアーチャーが、ふと口にした。
「ラン、サー、ランサー、」
しっかりとランサーはその声を聞きつけた。攻めは止めぬままで己の名を繰り返すアーチャーにたずねる。
「うん?」
「きみが、きみが、」
みえない。
「―――――」
一瞬の間沈黙すると、ランサーは奥まで突き込んだ自身を一気に抜き取った。そして崩れ落ちかけたアーチャーの肩を掴むと、仰向けにする。そうしてアーチャーの体をかき抱き、一気に奥まで。
「あ、うぁあっ!」
……叫びが、響いた。
ランサーの背中にぎしり、と回されたアーチャーの腕が、手が、その爪が喰らい込む。熱さと流れるものを感じたが、ランサーは気にもせず律動を続けた。
「あ、あああっ、ランサー、ランサー、」
必死に喘ぎとランサーの名が入り混じったものを繰り返すアーチャー。彼の内に絞られ、ランサーの額にも汗が浮かび、限界が近まる。いよいよ内に、放とうとしたときだ。


「――――― ……死ぬ……!」


ほとんど涙声でそう言う声が聞こえたと同時に、ランサーは脳裏を白く焼かれていた。


恐慌状態とも言えたついさっきまでの様子はどこへやら、アーチャーはおざなりにではあるが整えたベッドで眠っている。
もちろん汚れたシーツはとっぱらってマットレスに直寝、ブランケットはくしゃくしゃだ。
汗で濡れたTシャツを脱ぎ、上半身だけ裸になったランサーは煙草をくゆらせアーチャーの寝顔を見つめる。
すう、と紫煙を吸って吐きだし、ぼんやりとしているうちに半分が灰になった煙草を灰皿に押しつけて。
「オレが見えない云々もキたが、あの状況で“死ぬ”ってな、とんだ……」
とんだ殺し文句だ。
オレが死んじまう、とくつくつ笑いながらランサーは手を伸ばし、アーチャーの髪を撫でるのだった。




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