「なあ、このままふたりで抜けださねえ?」
このおとこはなにをいっているのだろう、
そんな思考をしたのが伝わったのだろう。ランサーはにやけた顔を一転ふてくされたものにすると、なんだよー、と子供じみた言い様をしてみせた。
「こういうとこで意中の相手を誘いだすには定番の口説き文句じゃねえか。えーと、あと合コンとかで」
「合コンだとか君な……ああ、まあな、君には似合いの席か」
「なんだよー」
再びランサーは言って、アーチャーの肩をがっしりと掴んできた。
「みんなでワイワイ騒ぐのも楽しいだろうぜ? でもオレは、おまえとふたりっきりで、こう、しっぽりとだな」
「温泉宿にでも誘うつもりかね……行く気はないが」
「ないのかよ!」
ない、とすげなく言ってアーチャーは真正面からランサーの顔を見た。するとランサーは意表を突かれたのか少し驚いたような顔をしてみせる。
じゃかじゃかとどこかの部屋から漏れだす大音量を聞きながらアーチャーは、
「いいか? みんなでここに来ないかと。言いだしたのは君のはずだろう?」
「そうですけどー。でもよ? いざおまえと一緒になってみると、こう、だな」
「どう、なのだね」
「こう……」
ふたりっきりになりたくなった。
「…………」
「…………」
ふう、とアーチャーはため息をついて。
「部屋に戻るぞ」
「結局それかよ!」
結局それなのである。
「あら、なによ。あんまり遅いから抜け駆けしてふたりでどっかにでも行っちゃったかと思ったわ」
わっ、と部屋のドアを開いた途端暴力的な音がアーチャーとランサーに襲いかかる。フレーバーティーのコップを片手に言ったのは凛で、そう遠くもない予想にランサーは気まずそうに……そんなことねえよ?などと口にしていた。
「あっ、ランサーさん。次ランサーさんの番ですよ、はいっ」
そう言いながらデンモクを差しだしてきたのは桜で、その隣ではイリヤが何を歌おうかなーなどと歌詞本を品定めしている。
そう。ランサーがみんなでここに来ないかと誘ったのは、新都にあるカラオケボックスだったのだー、ばばーん。
「え、オレ? ……悪りいけどオレ、マジで歌っちまうけどいいんだろうな?」
「だろうな? ってなんで偉そうなのよ、鬱陶しい。どうせあんたの入れるのなんてガンガンうるさいロックかパンク辺りでしょ」
「ふふーん、甘いな嬢ちゃん。オレの歌うのは……甘く切ないラヴ・ソングだ」
「うわっ似合わなっ」
「似合わなって言うな!」
「だって実際似合わないもの、クランの猛犬と甘く切ない? ラヴ・ソングなんて」
曲を決めかねているのかイリヤが顔を上げて言って、ランサーはちっちっちっ、と人差し指を振ってみせる。
「アインツベルンの嬢ちゃんはまだまだお子様だな。オレのラヴ力を知らないからそんなことが言えるんだぜ」
「えーと。……ばかみたい」
「ばかみたいって言うな!」
もはや形式美となりかけたやり取りを女性陣とランサーが繰り広げる中、士郎がアーチャーに向けてたずねてきた。
「おい、アーチャー。飲み物追加するけど、なんかいるか?」
「ほう、衛宮士郎にしては気がきくな。ならば私はアイスティーをもらおうか」
「ん、了解」
その後も士郎は持ち前の気遣いで全員に注文を取ると、室内にある電話で注文をする。
「えっと、注文お願いします。アイスティーとコーラとオレンジジュース四つ、それからトマトジュース。あとピーチティー」
ちなみにアーチャー・ランサー・(セイバー・士郎・イリヤ・桜)・ライダー・凛、の順である。
「ランサーさん、順番来ましたよ。はいマイク」
「期待していますよランサー」
「正直アーチャー以外には期待してほしくないがな! オレの歌を聞けぇ!」
総合。
実際、ランサーの歌は上手かった。みんながほおおお、と感心してしまうくらいには。
振り付けやウインクなども取り入れて、ただ、アーチャーだけが何気に恥ずかしかったことは記載しておく。
「シロウ……? この機械の操作はどうやってしたら?」
「ああ、それはな、ここをこうやって……」
「せ、せんぱいっ、あのっ、よかったら、わたしとデュエットなんて……っ」
(よく言いましたサクラ!)
わいわいと場は盛り上がり、あっという間に時間は経ち。
「あれ、もう三時間経ったのか?」
「楽しいときが過ぎるのは早いものですからね」
「……延長」
「しちゃおっか!」
わっ、と歓声が沸き起こる。そして結局全員の滞在時間は五時間にもなり、次の日には士郎特製のゆず湯が皆に振る舞われたという。
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