泥が、滴る。
「っふ……」
黒い写し身の自分に体を嬲られながら、アーチャーは屈辱に喘いだ。
間桐桜が闇に落ちて、アーチャーは一度は泥に呑み込まれた。けれどアーチャー自身は泥に染まらず、代わりに現れたのはもうひとりの自分だったのだ。
黒い写し身であるアーチャーは、同じく泥に呑まれたランサーと共にあっけなくアーチャーを追い詰めてみせた。力の差はもはや歴然としていて、――――消される、
そうアーチャーが思ったそのときだ。
“みんな……穢して”
聞こえたのは桜の声。その声を聞き取った黒い写し身のアーチャーとランサーは、アーチャーへと突きつけた死の形を一度は取り下げた。だがその後の展開は最悪だった。消される方がましだ、そんな目にアーチャーは遭わされたのだから。
“みんな、とはおまえのことも言うのだろうよ、もうひとりの私。……正直ランサー以外など触れたくもないが、マスターが言うのなら仕方ない”
一度は消した対の剣を再び顕現させると、黒い写し身のアーチャーはアーチャーの概念武装を切り裂いた。一筋の傷ができ、鈍い痛みがアーチャーを襲う。
呻いたアーチャーを見てつまらなさそうにその肩を足で蹴りつけると、黒い写し身のアーチャーは告げる。
“穢してやろう、もうひとりの私。大丈夫だ、終わったらきちんと消してやる”
“――――な”
思わず絶句したアーチャーに嗤ってみせると、黒い写し身のアーチャーはその体に、覆いかぶさってきたのだった。
「は、あ……、!」
屈辱に塗れ、声を抑えようとするが上手く行かない。泥は催淫剤のような効果でもあるのか、アーチャーの性感は簡単に高められていき、彼はその恥辱に唇を破れるほど噛みしめた。
「っ、く、」
「噛むな……」
言いながら黒い写し身のアーチャーがくちづけてくる。ぬるりと割り込んでくる舌に嫌悪感をあらわにしたアーチャーだったが、結局はその感覚の虜となってしまっていた。
何故。どうしてこんなことに。問うても答えなど出るはずもない。ただ、あるのは現実だけ。
いっそ自害してしまいたかったが泥に拘束され身動きも取れずに、黒い写し身の自分の愛撫を受けるしかない。自らと同じ、いや、それ以上に冷たい体温に震えが来る。
「ふ、はぁ……」
ふと漏れた声に見れば、ランサーが黒い写し身のアーチャーの体を弄っていた。その端正な美貌に何の色も浮かべずに、泥に沈んだランサーはどこか淡々と黒い写し身のアーチャーの体のそこかしこを触っている。
「も、っと」
ねだる甘ったるい声を上げ、黒い写し身のアーチャーは概念武装の鎧部分を解除した。するとそこにするりと死蝋に染まったランサーの手が入り込む。
「あ、ん……っ……」
自分と同じ声が喘ぐのを聞かされて、かっと顔が熱くなる。やめろと大声で叫んでしまいたかったが、それより先に漏れるのは喘ぎで、アーチャーはその悔しさに歯噛みした。
白い肌の上でそこだけ赤く色づいた胸の尖りをいじりながら、ランサーは黒い写し身のアーチャーの耳の後ろにくちづける。と、そこが感じる場所なのか、黒い写し身のアーチャーはアーチャーの上で体を揺らした。
「……く!」
ふたりが絡みあっている隙を見て何とか泥から逃れようとしたアーチャーだったが、そこを目敏く黒い自分に見つけられてしまう。くすくすと猫のように笑いながら、黒い写し身のアーチャーはアーチャーの片足を、抱え上げる。
「逃がさんよ」
そうして手にした剣を振りかぶって、ぴったりとアーチャーの肌に添った下肢の概念武装を切り裂いた。
びりびりと破けた隙間から覗く褐色にさらなる屈辱を感じるアーチャー。けれどふたりはそんな彼を楽しむように、彼の体の上で幾度も絡みあうのだった。
「衣類を裂かれるなら、身を裂かれた方がましだという顔だな」
黒い写し身のアーチャーはそう言って嗤うと、何度も何度もアーチャーの概念武装に剣を振り下ろす。そうやって黒い部分は裂けていき――――やがては、ほとんど肌が丸見えの状態になってしまい、アーチャーはそれにまた唇を噛む。
「……っあ!」
そこに泥が生きているかのように入り込み、アーチャーは声を上げる。泥はうねうねとうねると、アーチャーの肌を這い、奥へと進んでいき、そうして最後には最奥付近までに辿りつき、その付近を撫で回すように動いた。
「私はわざわざおまえを慣らしてやるほど優しくはない。……けれど、少しの慈悲くらいはあるぞ?」
「ひ……っ」
そんな声と共に最奥へと急激に泥に割って入られたアーチャーはつい、叫び声を上げてしまう。ぬるぬるとした感触の泥は驚くほどスムーズに奥へと進み、止めることができない。
「あっ、あっ、あっ、あっ、くはっ、」
そして声も止めることができずに、アーチャーは身も世もなく泥に犯されて喘いだ。
「ん……」
泥に犯され、喘ぐアーチャーの上で黒い写し身のアーチャーはランサーとくちづけを交わしていた。軽く。淡く。それから、深く。
糸を引くほど最後は深々とくちづけを交わして、ふたりは唇を離した。
ぽたぽたと、その唾液が泥に滴り落ち、泥は喜んだかのようにそれを飲み込む。
「さて、そろそろいい頃だろう?」
泥に犯されきり、茫然自失としていたアーチャーはふとその声に気づく。上を見上げるとそこには舌なめずりをした、黒い己の写し身がいた。
「あ、…………、」
「私も本当は勘弁願いたいのだがね……」
マスターの命令だ。
そう言うと、黒い写し身のアーチャーは腰を進め。
「――――ああああ……っ……!!」
アーチャーの内へと、その自身を沈めていた。
「あああっ、ああっ、はあ、くあ、」
「あ……ん……」
またも舌なめずりをし、黒い写し身のアーチャーはさらに腰を進める。するとぬちゃり、と粘着質な音がして、アーチャーは泥の中で身悶えた。
「ああっ……ああああっ!」
「は……ランサーとの交歓とは比べ物にならないが、なかなか悦い……」
もちろん数段劣るが、そう言い捨てて黒い写し身のアーチャーは腰を使う。一方的に嬲る立場だというのにその様はさながら猫が戯れているかのようで、もしも見ている者がいたのならさぞかしおかしな気分にさせられただろう。
「や、ああああっ! やめ、や、あ、っ、」
「嫌なものか……おまえの体は、反応している」
「ぅあ! く、あ、んんっ、ぅふ、」
「ほら……こんなにも、おまえは」
――――穢れている。
嬲られ、弄ばれ、苛まれ。アーチャーの心はいつしか内に篭ろうとしていた。逃避。名をつけるならそれだろうか。
「んん……っ、いくぞ……?」
最後を示唆するその言葉にも何の答えも返せずに、アーチャーはその身に泥と化した濁液を受けて、正気を失った。
「……壊れたか。脆いものだ。これが私だと思うとまったく不甲斐ない」
まあ、終わったのだからもうどうでもいいが。
黒い写し身のアーチャーはそう言ってアーチャーの中から自身を抜き取ると、背後に寄り添っていたランサーにくちづけを求めた。
そして何度もそれを交わした後、
「今度は……君が私を愛してくれるのだろう? ランサー……」
そう言って、嬉しそうに、心から嬉しそうに、にっこりと笑ってみせたのだった。
やがてそれからは泥に落ちたふたりが交じわう音が続き、
打ち捨てられた錬鉄の英霊は、誰にも省みられることは、なかった。
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