「アーチャーの方がいいなあ」
「は?」
ぱりん、と煎餅を齧りながら言ったのは凛で、前の台詞を言ったのはランサーで。
そこにいたセイバー・桜・ライダー・イリヤ・士郎そしてアーチャーも当然、その台詞を聞いていた。ただ、あまりにも唐突だったのでその場にいた全員がランサーの言葉の意味を掴み損ねてしまったのだった。
「……一応聞いてあげるけど。どういう意味なのよ、ランサー」
「いやよ、この変身ヒーロー? っての見て思ったんだけどよ」
セイギノミカタってんだよな。テレビ画面を見ながらなおもランサーが言う。凛はそこで既に嫌な予感がしていたらしい。しかめていた顔をさらにしかめて、思ったからなに、と重ねてそれでもたずねてやる。
「同じ正義の味方なら、オレはこいつよりアーチャーがいいなあって思ってよ」
あーあーあーそーうーでーすーかー。
一気にその場にそんな雰囲気が流れる。ただ、アーチャーだけが、
「な、何を言うんだランサー!」
がたん!と目に見えて動揺して立ち上がり、ランサーに人差し指を突きつける。
「私は、その、正義の味方、などと! そのようなものでもないしなるつもりもない! めったなことを言ってもらっては困るのだがね!」
「え? だっておまえ正義の味方じゃん」
「だから!」
「おまえの生き方。誇りに思ってるぜ、オレはな」
「なっ……!」
ツンデレ大豊作。
藪をつついてなんとやらである。
にっかりと笑ったランサーに真っ赤になって言葉を失ったアーチャー、そのふたりに場が微妙な雰囲気になる。
いちゃついてんじゃねえよ。
とか、なんとか。
「砂吐きそうだわ……」
「さ、砂糖じゃないだけましですよ姉さん!」
「そうかしら? 本当にましかしら? そうかしら?」
「自信はありませんけど……」
互いに互いを慰めあう遠坂姉妹が一番の被害者と言えた。特に凛が。だが、
「そうよ、シロウは正義の味方なんだから! もちろんアーチャーも正義の味方よ、決まってるわ!」
「おっ、アインツベルンの嬢ちゃんは話がわかるな。気が合いそうだぜ」
「正直ごめんだけどね。その点だけは認めざるを得ないわ」
「素直なのはいいことだ!」
「えっ……」
イリヤとランサーがうっかり同調してしまったのである。遠坂姉妹、特に凛は慌てた。
「ちょ、ちょっとイリヤ! あんた変なこと言ってんじゃないわよ!」
「あら、どうしてリン? シロウは立派な正義の味方よ。わたしの誇りなんだから!」
「あ、嬢ちゃんそれオレの台詞」
「いいの、心の狭いこと言わないの! いい台詞はみんなで言うものなのよ!」
「……イリヤ……」
士郎、ちょっと照れている。一方一気に劣勢になった凛はちゃぶ台にだん!とこぶしを叩きつけ、
「それはそれ、これはこれ、よ! そこの馬鹿ふたり、誇りを持つのはいいけどくれぐれも変なものにしないようにして、」
「ちょっと待て嬢ちゃん。いくら嬢ちゃんでもこれは譲れねえな!」
「そうよリン、わたしも譲るつもりはなくてよ?」
「――――〜っ、こ、の、」
遠坂凛、臨界突破一歩手前。
桜はその隣でおろおろとしている。気性がおとなしい彼女のことだ、姉のように一気にリミットブレイクできないのだろう。
……ただ、溜め込みすぎた上で爆発するという厄介さを持ってはいたが。
「リン、ひとついいでしょうか」
そのときだ。
場から一歩引いていたライダーが、すいと手を上げてひとこと、言葉を発したのは。
「え……?」
「ラ、ライダー?」
「こういうときにぴったりな言葉があります。“臭いものには蓋”」
眼鏡のブリッジをくい、と上げて、ライダーは艶やかな髪を流すと涼やかな声でそう、告げたのだった。
「嫌なものなら見なければいい。人はそうやって人生をなんとかかんとかやっていくものです。リンも、そうした方がよろしいかと」
「ライダー、それ、なんかちょっと違う……」
気が抜けたように言う桜の横で、凛はぽかんと目と口を丸くして。


「――――あーそうですよっ! こいつらにまともにかかったわたしが悪いのよ! わたしが全部悪いの! 悪の根源なのよ!」
正義の味方に退治されるね!
そう一気にノンブレス無呼吸で怒鳴ると、凛はだっ、と居間を飛びだしていったのだった。
「ね、姉さん!」
その後を桜が一拍遅れて追いかける。どたどたどた、と足音。
ひゅるり、と風が吹いて。
「……君たち、後で凛に謝っておくように」
「えー、なんで」
「わたしたち悪くないもの! ねっランサー」
「だよなあ?」
眉間の皺を揉みながら、アーチャーはどこか嬉しそうだったそうな。




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