「! イスカンダル……ではなく、ええっと、ライダー、だったな」
「おお、アーチャー。よしよし、今日も元気そうで何よりだ」
「わぷ」
がしがしがし、とその小さな頭を撫でられ、矮躯の少女アーチャーはよろめく。ライダーことイスカンダルのスキンシップは少しばかり熱烈で、力加減というものがあまり上手くは行っていないようだった。
力加減などするよりも、まず先に好意を。
伝えるのが彼の流儀のようで、そのマスターもよく彼の洗礼を食らっている。
やめろよライダーと言いながらもマスターの顔は嬉しそうで、アーチャーは何だか不思議な気持ちになるのだ。ふたりを、見ていると。
仲のいい主従で微笑ましい、そしてまるでどちらが主で従なのかわからない、と顔を緩めるくらいには。
「商店街で君と会うとは思わなかったよ。何か用事でも?」
「いやな、ただ天気がいいからぶらぶらと歩いていたんだが。うちのマスターに言っても軍資金は出ないし、それなら散歩でもしようかと思ってな。ああ、でも」
会えてよかった。
「えっ……」
そんな、ことを。
言われるとは思わなかった!という顔でアーチャーはイスカンダルを見上げる。天を衝くような巨体、燃え盛るような髪の色。それが、イスカンダルという男の姿。アーチャーはぽかんと目を口を丸くして彼を見上げる。
「私に?」
「おう、そうだとも。偶然というやつに感謝せねばなあ」
「そ、そうか……」
「おまえさんは?」
「えっ」
私が何か?
間の抜けた答えを返してしまったアーチャーに、何故だか無邪気に見える様でイスカンダルが、
「おまえさんは、余に会えて嬉しかっただろうかと聞いている」
「え、えっと……」
少し戸惑って、から。
「そ、そうだな。悪くはないよ」
なんてことを、口にして、いた。
「悪くはないよ、じゃないわよねほんと……バレバレだっつーの」
「姉さん、そんな風に言っちゃいけませんよ。アーチャーさんわかってないんですから」
「だって、士郎ですらわかってるのに。士郎ですらよ?」
「ちょっと待て遠坂、俺を疎いか疎くないかの基準にするのはやめてくれないか? 地味に傷つく」
「あらだって、そうじゃない」
商店街、店先で。
話し込むふたりを眺める三人の姿があった。遠坂凛、間桐桜、それから衛宮士郎の高校生トリオである。
「わかってるんでしょ士郎? アーチャーの気持ち。まさかわかってないだなんて言わせないわよ」
「いやさ、わかってるけど……でも、」
「でもじゃない」
「ううう、横暴だ遠坂……」
士郎はぐっと堪えてしかしそんな台詞を吐く。せめてもの仕返しだというように。
まさか凛と言えどお外、しかも人通りの多い商店街で暴れだしたりはしないだろうという希望も込めての仕返しであった。だが彼は知らないのか。今はお外でも、帰るところは結局お家だということに。
「それにしてもアーチャーさん、恋、しちゃってますよねえ……」
いいなあ、うらやましいなあ。
自らも恋する乙女のはずなのに頬を染めてうっとりとつぶやく桜。恋しちゃってる。
そう、アーチャーは。
イスカンダルに恋している、のだ。誰の目から見ても、どの角度から見ても。
けれど本人だけはそのことを知らず、この気持ちは何だろうとラベルを貼って分類することが出来ずにいる。友好は感じる、けれど?
けれど何だろう、この気持ちは。まさか父性を私は彼に求めて……?
などと拙い思いを繰り返して、結局答えに辿りつかない。疎いのだ、士郎と同様に。
他のことには聡いくせに、そういうところだけ初心でいる。それがアーチャーという存在。
「なあ」
「! ……何だろうか」
「おまえさん、これから予定は?」
「……? いや、買い物も終えたし、あとは帰宅するのみだが」
「そうかそうか、それなら少し余に付き合ってはくれんか、なあ」
「え! ……あ、いや、うん。何だろう? この辺の案内だろうか?」
それならば慣れているから任せてもらおう、と言うアーチャーにそうさなあ、とイスカンダルは髭を触り。
「この辺をぶらぶらしてからどこかで飯でも食べて、それから公園というところで休もうか、と思っているんだが、どうだ?」
「それって」
「……うん」
「――――デート、ですね……っ!」
きゅぴーん、と反応する高校生トリオ。アーチャーはぽかんとイスカンダルを見上げ、彼の言ったことを咀嚼している。
そうして、
「まあ、うん。……かまわない、が」
「デートよ」
「デートだ」
「デートですね!」
きゃっきゃうふふ!
ひときわ明るく桜がはしゃぎ、そんな中をアーチャーとイスカンダルは連れ立ってどこかへ歩いていく。この辺をぶらぶらしてから飯を食べ、それから公園で休みに行く、のだろう。
「……どうする?」
尾行、しちゃう?
声を潜めて言う凛に、桜は真面目な顔で首を横に振り。
「邪魔は駄目ですよ、姉さん!」
「ちぇー」
彼ら彼女らはトリオから離れていく。やがてその姿が見えなくなってから、トリオもその場を後にした。
邪魔はしない。
ただ、お家に帰ってこっそり話すくらいならいいだろうと。
そんな企みを持って、トリオは衛宮邸へと帰る。
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