「私は君が好きだ!」
――――ちょっと、いきなり何言い出すのかしらこのサーヴァントは。


思わずガンド(ツッコミ)を放ちたくなりかけた自身を諌めて「ちょっとアーチャー!」とまん前のサーヴァントに呼びかけた。本当はちょっとどころじゃない、超アーチャー!なのだけど、いやちょっと落ち着けわたし。
目の前では青い男がぽかんとわたしたちを見ている。やめてよわたしを“たち”って一緒くたにしないで!わたしはこのサーヴァントのマスター……だけど、この娘とは他人です!言動の責任まで取れません!
「あのな……確認してえんだけどよ。嬢ちゃんたちは……オレの敵……ってことでいいんだよな?」
ああだからもう!
「そんなことを言わないでくれ!」
あんたこそこれ以上何を言い出すの!?
わたしに背を見せているサーヴァントは、剣を握る手にさらに力を込めて敵、であるはずの男を見据える。鋼色の目は真剣だ。ちょっと怖いくらい。
「私は君が好きだ! 初めて会ったときに一目惚れしたんだ、そのときからずっと今まで君の元に嫁ぐために鍛錬もしてきた!」
……ほんと、意味がわかんない。
「アーチャー、何言ってるの!? こいつとは初対面のはずでしょう!?」
「いや、マスター。私と彼は以前出会っている」
「オレは覚えがねえんだが!」
「なんだと?」
ぴくり、と華奢な背中が動いた。
いやなんだとって、それはこっちが言いたい気分。
見た目冷静でありながらも気配はヒートアップしていくという器用な真似をしてくれたわたしのサーヴァントは、ぎりり、と誠に物騒な音をその手元から出してくれた。
やだ、やめてよ、意味わかんない、ほんとわかんない、戦うんならどんと来いだけど、こういうのはなんか違うっていうか、ねえ、そうでしょう?
「私は――――」
一拍溜めて、わたしのサーヴァントは夜の校舎中に響き渡る声で叫んだ。
「初めてを君に捧げたというのに!」
「――――」
「――――」
しん、と沈黙が耳に痛くて、
「はァ!?」
わたしと男は、同時に叫んでいた。


「ちょっとアーチャー! それどういうことなの、詳しく説明しなさい!」
「待て嬢ちゃん! 女がそんなこと軽々しく口にするもんじゃねえぞ! なあ!」
「ああらおじけづいたのかしらあなた! それにその言い方は女性蔑視に取れるわよ?」
「はあ!? 誰がそんな」
「あなたよあなた! 目の前にいるあなたよ! そんなこともわかんない!?」
「わかるかー!!」


なんでわかんないのよ、ほんと頭の回転悪いわね!
と、それはともかく、わたしはむっとして唇を突きだしている目前のサーヴァントに詰め寄る。
彼女はわたしより背が低い、だからそうするとまるでキスを迫ってるみたいだ。
「初めてを捧げたってどういう意味なの!」
「あの日、この校舎で奥深く私を貫いたのは彼だ。ひどく鋭い痛みが稲妻のように走って……私は……」
「わわわわわたしは?」
「……傷物にされた。一生もののな」
「…………」
わたしは彼女の肩に置いた手に力を込めた。
そうしてくっとうつむくと、
「責任取りなさいこのケダモノ!」
「だからなんでだよ!?」
だって、ケダモノは罰を受けるべきだ。
わたしが加勢したことで勇気を得たのか、傍らのサーヴァントは心なしか顔を明るくしている。まるで日向に咲く花のよう。
「マスター、それでは私と彼の仲を……」
「それとこれとは別だけど、あいつは責任を取るべきだと思うわ」
「だからなんで!」
「ランサー」
食ってかかろうとした男のクラス名を、彼女が呼ぶ。それに鼻っ面を叩かれたみたいになった男に彼女は、
「私のことが……嫌いなのか?」
「――――」
男は黙ってしまった。腰抜けめ。
こういうときは“そんなことないよ”ってかっこよく言って決めるのが男でしょ?
「私は君の元に嫁ぐために花嫁修業もしてきた。準備は万端だ。君さえ受け入れてくれれば……すぐにでも……」
恥らう彼女。
……同性でも可愛いものは可愛いのね。
っていうか、やだ、なんか、わたし、さっきから暴走してない?してるわよね?
でも仕方ないっていうか。だって、目の前にいる男があんまりにも情けないんだもの。
「あなた」
わたしは彼女の肩に置いた手に力を込めたまま、男の方を睨みつけた。
「女の子にここまで言わせといて、逃げる気?」
「……くっ」
「ランサー」
彼女がまた、男の名を呼んだ。
「私のことが嫌いなのなら言ってくれ。……ならば私は君を諦める。もう二度と会わない……から……」
「あ……う、」
「さあ、言ってくれランサー。“おまえが嫌いだ”と。そうすれば……」
私は。
彼女はそう言った。
さっきの再現じゃないけど、女の子にここまで言わせておいて逃げるなんて許されないと思う。
わたしがじっと睨みつけるように男を見ていると。
――――ガタン!
ふと物音がして、わたしたち三人は振り向いた。するとそこにはひとりの男子生徒の姿。
「あなた……衛宮……くん?」
「わ、悪い、」
見る気じゃなかったんだ、なんて言って廊下の角に隠れるように消えていく。そしてそのまま彼は走っていった。
「…………ちょっと! 待ちなさい! 言い訳なんて通じないんだから!」
わたしはしばらく呆然とその後ろ姿を見送った後、猛ダッシュでその後を追う。階段を駆け下りて、玄関まで走って、校庭に飛びだして、肩を力任せに掴んであびせ倒してそれからだ。
あのふたりを、ふたりっきりにして置いてきちゃったことに気づいたのは!


「しまった――――!!」
「と……遠坂……痛いんだけど……」


彼を連れて戻ってから、その場の空気が妙に桃色だったことを追記しておく、ちくしょうめ。


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