ぱたぱたと軽い足音。
「アーチャー!」
ぽん、と背に飛び乗ってきた重みにアーチャーは畳んでいた洗濯物を取り落としそうになって、慌ててそれを掬い上げる。そしてなつくイリヤを軽くたしなめた。
「こら、君ともあろうものが。はしたないぞ」
「えへへー。だって、アーチャーに会うの久しぶりなんだもの!」
シロウには何だかんだで会ってたけど!と言ってイリヤはにっこりと花のような笑みを浮かべてみせる。
「ねえアーチャー、しばらくどこに行ってたの? わたしを置いてひどいじゃない。寂しくて寂しくて仕方がなかったんだから」
「イリヤスフィール、君は今言ったばかりだろう? 衛宮士郎には会っていたと。それならば」
「違うもん! シロウはシロウ、アーチャーはアーチャー!」
同じだけど違うわ、と矛盾した言葉を突きつけてイリヤはアーチャーにしがみつく。むぎゅっ、と小さな体で隙間なく。
「……話すのが無理ならいいわ。でもこれだけは言わせて? おかえりなさい、アーチャー」
「……うん」
しばらくの無言が流れる。そこに、もうひとつ足音が近づいてきた。
「おや、イリヤスフィール。来ていたのですか」
「あら、セイバー」
こんにちは。
アーチャーにしがみついたまま挨拶をするイリヤ、いらっしゃいと微笑んで答えるセイバー。
「来ていたのですね。道場にいたので気づきませんでした」
「ついさっき来たところよ。真っ先にここに来たから、あなたが気づかなかったのも仕方のないことだわ」
アーチャーに会いに、わたしは来たの。
いっそ清々しい言い様でイリヤが言うから、アーチャーはわずかに狼狽してしまう。狼狽して、苦笑して、それから私など、と言う。
「私など、そんなに鬼気迫って追いかけるほどの価値はないよ」
「何を言ってるのアーチャー? あなたはわたしの大事な人! 真っ先に優先して問題のない存在なのよ?」
「そうですアーチャー、自分に価値がないなどという自虐は止してください。聞いていて楽しくない」
「楽し……セイバー、君はそんな考えを持つタイプだったか?」
「さて、どうでしょう」
ふふ、とこぼすセイバーの、そのお腹がきゅるると鳴った。ぱっと彼女の頬が赤くなる。
「あ、その、これはですね」
「わかっている、今まで道場にいたのだろう? それは小腹が減っても仕方ない」
「どうかしら。小腹なんてかわいいものじゃ済まないかもよ?」
「イリヤスフィール」
あらごめんなさい、と舌を出して詫び、イリヤはアーチャーから離れる。最後の洗濯物だったタオルを畳んでしまい、それと同時に立ち上がるとアーチャーはまだ顔を赤くしているセイバーに向かって、
「軽く何か作ろうか。リクエストはあるかね?」
「はい、その、……それでしたら、炒飯を。以前に作ってもらったあの味が忘れられないのです」
「以前のというと、海鮮炒飯か。具は確か……あったな」
待っているといい、と言い、アーチャーは台所へと向かう。その後を追うようにまた誰かが居間に入ってきた。
「アーチャー、研究資料のスクラップファイル知らな……イリヤじゃない」
「イリヤちゃん、いらっしゃい。あ、セイバーさんも」
今度は遠坂凛と間桐桜の姉妹ふたりがそろって顔を覗かせていた。何だかんだといって仲のいいふたりに、アーチャーはエプロンの結び目を直す。
「凛、ファイルは君の部屋の戸棚の引き出し三段目だ。桜、これから軽く昼食を作るのだが、君はどうする?」
「三段目……見たはずなんだけど……あんたが言うならそうなんでしょうね。探してみるわ、ありがと」
「あ、それならわたし手伝いますね! ひとりでやったより、ふたりの方が早いですし美味しく出来ると思いますから!」
「桜もですか。となると、今日の昼食は期待できそうだ」
「早くしてねサクラ、セイバーは相当に腹ぺこよ? 早々にお昼ご飯を作らなきゃ」
「なっ、イリヤスフィール! 違います、わたしはですね……」
「はいはい、何でもいいからちゃぶ台の上を片付けて準備する! 洗濯物は各自でそれぞれの部屋に持っていくのよ、素早くね」
凛が手を叩いて言うと、桜が山のひとつから桜の花がプリントされたエプロンを取り上げ装着する。ささっと後ろ手に紐を結び、両手でもって気合を入れるように握りこぶしを作った。
「はい、一緒にやっちゃいましょうアーチャーさん! 今日のメニューは何ですか?」
「セイバー御所望の海鮮炒飯だ。直々のリクエストを承ってな」
「わかりました、それならわたしはスープと簡単な付け合わせを作りますね」
調理担当が台所へ移動する間、凛とセイバーはそれぞれの洗濯物を手に取った。そして台所に声をかける。
「アーチャー、桜! わたしたちちょっと部屋にこれ置いてくるから! すぐ戻るわ!」
「イリヤスフィール、少し席を外しますが大丈夫ですよね?」
「大丈夫って……わたしを何だと思ってるの」
立派なレディよ、わたし。イリヤは言ってかわいらしくぷうっと頬を膨らませてみせる。それにはいはいと軽く返して、凛はひらひらと手を振った。
「じゃあ……って、今度はライダー?」
「リン、セイバー。それにイリヤスフィールですか」
「台所には桜とアーチャーもいるわよ。何? 居間に何か用事?」
「いえ、美容院に予約を入れるので電話をお借りしようかと。……アーチャーもいるのですね」
「いるわよ、帰ってきたじゃない。アーチャーに何か?」
「いえ」
ふ、とおそらくは最後にやってきたライダーは妖艶な笑みを浮かべると唇に指を添え、うつむいてから。
「たまにはアーチャーもわたしの行く美容院に連れていってはどうかと思いまして。こう言っては何ですが、化けるタイプ……だと思いますよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
全員の沈黙を一手に受けて。
「見たくはありませんか?」
「……見たいわね」
「わたしも!」
「そ、そうですね……」
「ラ、ライダー! 駄目じゃない、アーチャーさんが困る、でしょ……」
目を光らせる凛、飛び上がるイリヤ、惑うセイバー、止めようとするが興味津々の桜。それにアーチャーは後ずさって。


「ライダー、何故眼鏡をずらす!」


――――。
今日も衛宮邸は騒がしく。
久々に帰ってきた彼を相手に、女性陣が上へ下への大騒ぎを連ねて、いる。


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