「死ねばいいのに」
ランサーはぽつりと言った。
アーチャーは首をかしげた。
「死ねばいいのに……とは、誰のことだろうか?」
「決まってんだろ! おまえさんのマスターの……」
「おやおやランサー、私はアーチャーのマスターだけでなくおまえのマスターでもあるのだが?」
教会内に反響する無駄にいい美声。ランサーはそれを聞いて、げっ、という顔をする。心から、心底から嫌そうな顔だ。さもありなん。
「相変わらず神出鬼没だな、クソ神父」
「ははは、そう褒められても困るぞ」
「今のどこが褒めてんだよ!」
それはそうだ。まったくもって褒めていない。
ランサーはまるで裏庭に埋めた骨の位置を忘れてしまった犬のように機嫌悪く、ぎりぎりと奥歯を鳴らしながらクソ神父こと言峰綺礼を睨みつけた。その赤い瞳には途方もない殺意がこもっている、明らかに。
視線で人が殺せるという言葉があるが、まさに今のランサーの視線で誰かが殺せそうだった。あまりにも物騒な視線だった。
だというのに言峰はけろりとしていて全然その脅威を感じていない。おそるべし、言峰綺礼。彼は本当に人なのか?
一方でアーチャーは小さい体をさらに縮めてどことなくうなだれている。我がマスターがまたランサーに迷惑を……などと思っているのだろう。彼女はひどくそこのところが健気だ。
自分のせいではないというのに、困って惑って迷ってしまう。
「ランサー……その……」
なのでどうしてもおずおずと、アーチャーはランサーに向かって切りだした。その声を聞いてランサーは、思わずはっとする。
「あ……いや! 確かにおまえのマスターはクソ神父で外道神父、おまけにダニ神父だが、何もおまえが負い目を感じるこたあ……」
「ひどいなランサー。そこまで言われれば私もさすがに傷つくぞ」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねえ、ドS神父!」
今ここに。
新しい言峰綺礼の称号が追加された!
「大体だな、てめえみたいなのがなんやかんや言われたってそう簡単に傷つくわけがねえだろが」
「そうかな? アーチャーと違っておまえは私のことをよくは知らない。だとすればわからないではないか? 私がおまえの言葉に傷つかないか、どうかなど」
「本当に死ねばいいのに」
ランサーは吐き捨てた。真顔で。とても冷たい声音で。
「私が死ねばおまえはマスターを失ったサーヴァントとして、この世に顕現できなくなるがそれでもかまわないのか?」
「ああ、かまわないね。てめえなんかと顔付き合わせてるよか、その方が何百倍もマシだ」
と、いうかだ。
「アーチャーがてめえのことをよく知ってるってのは、どっから来た妄言だ」
「ふむ?」
ふむじゃねえ、とランサーは眉を吊り上げる。
しかしな、と言峰は楽しそうだ。実にイキイキしている。
「おまえも知っている通り、私とアーチャーは十年来の付き合いだ。ぽっと出のおまえなどよりは、確実に互いのことを知り合っていると言えるではないか?」
「なっ」
――――確かに!?
いやだが、しかし!?
「年月なんて関係ねえだろ! 付き合いってもんはな、深度なんだ。どれだけ深く関わってたかで、親密さってもんは決まっ……」
「だとすれば、ますます私たちの間柄は親密なものになるが」
「…………!?」
ランサーは、目に見えて動揺した。
一体どういうことだ!?
「この十年というもの、アーチャーはとてもよく私に尽くしてくれたよ。それはもう言葉では言い表せないほどにな。……おっと、この先を言えばおまえはさぞかし……」
「さぞかし!? さぞかし、なんだってんだ!」
「さぞかし……ククク」
「クククじゃねえ! 気味悪い笑い方すんな!」
だんだんだん、とランサーが足を踏み鳴らすが言峰は答えない。ただとても、とっても楽しげに笑い続けている。アーチャーは困り顔だ。
「結論から言えばランサー、おまえは私を殺せない。死ねばいいと言うのにな。……おまえが私を殺しておまえもがこの世から消えれば、おまえは二度とアーチャーに会えなくなる」
「ッ!」
それは。
知ってはいたけれど、避けていた結論で。アーチャーに会えなくなる。それは、今のランサーにとって、ひどく――――。
「欲情を抱いた相手に二度と会えなくなるというのは悲しいことだろう?」
「抱いてねえ――――!!」
ランサーは絶叫した。白い顔が真っ赤になっていた。当然だ。
“好きな相手”だとか“好意を持った相手”だとかソフトな言い方がもっとあるだろう!?そしてその言い方はあまりにもあまりすぎるだろう!?直球ストレートすぎるだろう!?
「本当か? 本当に本当だと、神に誓って言えるのか?」
「神に誓うだのなんだのをてめえが言うんじゃねえクソ神父!」
ああもう本当に死ねばいいのに!
ククク……と本当に本当に楽しそうに笑う言峰に荒れ狂うランサー、申し訳なさげなアーチャー。
傍目から見れば彼らは完全な漫才トリオであった。
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