「また君を相手取るとは……思ってもみなかったよ。ますます腐れ縁という奴の存在を感じずにはいられないな」
「おまえに先に言われちまうとはな。だがまあ、――――腐れ縁、か。そいつも悪くねえ」
そう言って青い髪の男――――ランサーが笑う。それに合わせて赤い外套の男――――アーチャーも笑った。


西暦2032年、大源の魔力が枯渇してしまっている電子世界で再び出会った青と赤。霊子虚構世界・通称「SE.RA.PH」に構築された月海原学園の屋上で彼らはささやかな風に吹かれていた。
互いにマスターから許可を受けてこうして会っているが、本来は命を懸けて戦う仲である。それをわかってはいても記憶媒体に残るメモリーを想えば、相手の前に自分自身を無下には出来なくて。
だからこうして、些細ではあるがふたりで話す時間を作っているというわけだ。
「……それにしてもおまえは変わらねえな。いや、雰囲気がちょっとばかり柔らかくなったか。マスターの影響か?」
「かもしれないな」
くつくつと喉を鳴らしつつ、アーチャーはその視線でランサーの全身を眺め回す。それにきょとんとランサーが目を丸くしたところで、
「反対に、と言ってはおかしいが君は変わらない……と言ってもいい意味でだが。しかし……」
伸ばされる五指。それが青い髪を一房取って――――
「髪が少し短くなったように思えるのだが。私の“記憶”違いかな?」
そんなことは有り得ないとわかっているのにわざとらしく。アーチャーは鋼色の瞳を細めて、手中の青い髪を弄びながらランサーに問いかけた。
「ああ?」
アーチャーによって髪をされるがままになっていたランサーはその問いかけに怪訝な声を上げるが、すぐ合点がいったようにまばたきをする。ああ、と今度はまた違うトーンでひとこと。
「この世界に構築されたときに誰かの気まぐれでこうなったんだろうさ。確かに前は今よりもうちっと長かったように思うぜ」
おまえの記憶違いではないとその言葉を直接言わずに、けれど明らかに意味合いでは口にして微笑むランサー。その全体を楽しむように眺めていたアーチャーがふと、口を開いた。
「服が」
「ん?」
「服が、随分と変わったな」
「あ? ああ……」
髪に触れていた手が離れていく。その手を顎に当てると、一歩後ろに下がってアーチャーはもっとよくランサーのことを見ようとするかのように首を前にのめらせた。それに居心地が悪そうな様を見せ、だが拒否はせずにランサーは。
「そんなに気になるか?」
「……割と」
気になるな、と言われ虚を突かれたような顔をするランサー。しかし彼の服装は以前とは確かに、明らかに違っていた。
以前もそうではあったが、さらに体の線を誇張するようにデザインされたスーツ。
右腕はシンプルに、左腕は複雑なラインが走り、ひときわ目を引く存在となっていた。
眺め回されている以上、動くのもまずいと思ったのか。
どことなくぎこちなく直立を保ったランサーにアーチャーが不意に、
「ランサー」
「なんだ?」
「触れてみても?」
「……は?」
ただ一文字だけを発し、ぎしっと軋んだランサーにアーチャーは突拍子もない発言とは裏腹な……いや、変に釣り合った真摯な瞳で。
「前から君の服の素材は気になっていたんだ。デザインは変わったが、見たところ大元の素材は変わっていないだろう?」
だから。
だから、なんだと。
「……だから?」
「君がよければ、触れて確かめてみたいんだが……」
ええええー。
なんて言いたそうな顔で言葉に詰まってしまったランサーを、顔をかなり下げていたせいで実現した上目遣いで見上げるアーチャー。
「……駄目、だろうか」
そんな。
そんな、残念そうに言われても!


「……別に、いいけどよ」
「本当か!」
なんでそんな嬉しそうに言うんですかね?
いや、わかってはいるんだ。それなりの付き合いではある、だからわかる。こいつは解析大好き野郎だ。
だから素材とか原料とかそういうのが大好きで、未知のものを発見したら胸が高鳴って、解析しちゃいたくなってたまらなくなってもうまいっちんぐ状態なわけなんですよねありがとうございます。
――――以上、ランサーの脳内を(デフルォメ過多に)お送りしました。
一応“そういう仲”であるアーチャーのことはランサーにすれば推察容易である。だがきっと間違ってはいないだろう。だって今だって既にランサーのことなんか置いといて目をきらきらさせてランサー・ザ・スーツに釘付けであるのだから。
「ん……」
ぺたり、と。
まずは胸元に手が触れて、アーチャーは唸る。続けてぺたぺたぺた、と触れるてのひら。そのたびアーチャーは唸り、首を捻った。
「これは…………か? いや、…………の方が近いか……。それとも……」
何かぶつぶつと言っているアーチャーは完全に自分の世界に入ってしまっていて、ランサーはどうにも身の置き場がない。棒立ちになり心底真面目に自分のスーツの素材を確かめる恋人の行動を眺めるしかない、というのは天国なのか地獄なのか。
「それにしても体にフィットしている素材だな……何で出来ているんだ? タイツとはまた違うようだが……」
ぺたぺた。
「温度は遮断しないんだな……」
ぺたぺたぺた。
「……温かい」
ぺたぺたぺ。


ああもう!


いい加減にしろ限界だ、とランサーが叫びそうになったとき、屋上の扉がガコン、と音を立てて開いた。
見てみると、制服姿の男子生徒と赤い私服の女生徒がいて。
「なにやってんのあんたたち……」
「…………」
せっかくわたしたちが気を利かせてあげたのに、という女生徒のつぶやきに、無言の男子生徒。それに最初は不思議そうな顔をしていたアーチャーだったが、ランサーの体に触れた自分の手とその至近距離に気づき。
「ななななななんでもないッ!!」
「ぐはぁっ!!」
真っ赤になったアーチャーの裏拳が見事に決まり、ランサーは屋上の柵を越えて吹っ飛んでいったという。


【校内での私闘は禁止されています】


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