最近、ランサーと衛宮士郎の様子がおかしい。
前はそうでもなかったのに、近頃は何だか仲がよろしくないようだ。一体何故なのだろうかと私からは聞きだせないが、かといって他の誰かに頼むのもどうかと思う。
だから私は結論を知ることはできない。
はずだった。
「いい加減にしろよ坊主。あいつはオレのもんなんだ、絶対的にな」
「そんなわけあるもんか、俺にだってチャンスはあるはずだ!」
居間の辺りを通りかかるとそんな口論が聞こえてきた。――――口論?誰と誰の。
言わずとも知れた。ランサーと、衛宮士郎だ。
どうしてかはわからないがつい身を潜めてしまい、洗濯物を抱えたままそれを盗み聞く。こっそりと、私らしくなく。
「チャンスも何も、あいつはオレのもんだって言ったろ? 坊主だって頭の回転は悪くねえはずだ、わかるだろ」
「わかりたくない、そんなの! ……わかるもんか!」
オレのもの、とは。
なんだろうか。そして衛宮士郎は何故あんなに激昂しているのか。ますます頭に疑問符が乱れ飛ぶ。理解不能だ。ますますもって、理解不能だった。
「じゃあなんだ? 坊主はオレからあいつを奪うってのか? その年で略奪愛たあ、空恐ろしいな」
「そんなんじゃない!」
「そんなん、なんだよ。人のもんを奪うってのはそういうことだ」
人のもの……。
何だ?
衛宮士郎がランサーのものを奪おうとしているのか?一体何を。それに、あいつはそんな男だったろうか。
いけ好かない奴ではあるが、人の物を奪うような奴ではないはずだ、決して。それは私がよく知っている。
それでは一体何なのだろうか……。
頭を捻って考えているうちにも、ふたりの喧騒は続いていく。
「俺は……俺は! 絶対にあいつを手に入れてみせる! 絶対にだ!」
ん?
“あいつ”?
あいつ、ということは、その“もの”は物、ではなく、者、ということなのだろうか。それはそれで疑問は深まる。一体誰なのだ?
「俺は……っ、」
考え込む私の耳に、切羽詰ったように叫ぶ衛宮士郎の声が飛び込んできた。
「俺は、あいつを……アーチャーを、手に入れてみせるんだからな!」
ガタン。
「ん?」
「え?」
まずい。
思わず動揺して物音を立ててしまった!逃げ――――駄目だ、間に合わない。何といっても向こうには最速の英霊、ランサーがいる。
そんなことを思っている間に、
「……なーにしてんのかな? アーチャーさん?」
どうしてか敬語のランサーに、私はうっかり捕まってしまったのだった。
「てか、何を覗いてんだ。アーチャーよ」
「の、覗いてなど……」
「覗いてただろ」
「…………」
言い返せない。
というか、だ。
「い、居間で聞かれて困るような会話をしている方が悪いのであってな!」
「だとしても覗いてた事実は消えねえぞ」
「…………」
言い返せない、再び。
私を問い詰めるランサーとはうらはらに、衛宮士郎は黙っている。むっつりと押し黙って、耳まで赤くなって。
「さて坊主。アーチャーにもおまえさんの気持ちは知れちまったわけだが」
どうするかねえ?
からかうような調子でそう告げたランサーに、衛宮士郎がきっと顔を上げる。その視線は――――まっすぐに、私を見ていた。
「俺は……」
搾りだすような声でつぶやいた後、衛宮士郎は。
「俺は、絶対あきらめないんだからなっ!」
言い捨てて、居間を飛びだしていってしまった。
あっ、と思わず私はその背を呼び止めようとしてしまったが、呼び止めてどうなるものでもない。
そして、
「アーチャー、ふたりっきりになれたな?」
肩にぽん、と手が置かれる。つい、びくりと体が跳ねた。
振り返れば真顔のランサーと視線が合って。
それから、彼は、にっこりと、わらった。
「おまえが誰のもんか、おまえにもとっくりと教えてやるよ」
いらん!
と言いたかったのだが逃げようもない。そうして私はとっくりと、ランサーに教え込まれることになってしまった。
後日衛宮士郎がそれを知ったかどうかは、私にはとんと知れようもない。
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