「やっぱりね、女の子にはゴスロリがいいと思うのよ」
床にカタログやら型紙やらを散らかして、若奥様はのたまった。


「――――はァ?」
それに何言ってんだよこの魔女が、と言いたそうなのはクランの猛犬。床にとっちらかったカタログを見ては興味なさそうに、ぺっ、と投げ捨てる。
「ちょっと、乱暴に扱わないでくれるかしら」
これだから野獣は。
とか。
言いたそうな若奥様。
このケダモノがっ、とかなんとか。
「ほら、端っこが折れちゃったじゃないの」
「知るかよ。死ぬもんでもなしに、そのくらい放っとけ」
「死ぬわよ!」
被服魂が!
若奥様が叫んだとき、「きゃっ」などと可愛らしい声が居間の入り口で弾けた。
そしてかたこととん、と何かと何かがぶつかりあう音。
「あ、あら」
桜さん。
そう呼びかけた少女に向かって、慌てて若奥様は姿勢を正す。そんな若奥様を少女桜は驚いたように見下ろし――――そして何かに安堵したかのようにほっとした顔で笑ってみせた。
「大丈夫か嬢ちゃん」
「はい、大丈夫です。ちょっと驚いちゃいましたけど……」
「本当にごめんなさいね、桜さん」
「いえ」
少女桜は笑って髪をかきあげると、ちゃぶ台の上にとん、とん、と先程盆とぶつかりあった湯呑みをふたつ置いた。無論中味はこぼれてなどいない。彼女は家事においてちょっとしたプロフェッショナルなのだから。
そういえば――――、
「ねえ桜さん? あの子、まだ逃亡中なの?」
あの子。
「はい、姉さんが言うには。セイバーさんと一緒でもなかなか捕まらないそうです」
「早く捕まえてここに持ってきてくれないかねえ。本人がいるといないのとじゃ、なんていうんだ? テンション? ってのがまるで違うからな」
本人。
「そうですね……アーチャーさんも、もう観念した方がいいんじゃないかな、とはわたしも思いますけど」
アーチャーさん。


あの子、本人、アーチャーさん。 これら全ての名称は同じ人物を指すものである。すなわち今現在、サーヴァント・アーチャーは逃亡中&ついでに女体化中なのだった。


「でも姉さんとセイバーさんが一緒でもなかなか捕まえられないって、アーチャーさんかなり必死ですよね」
「アーチャー必死だな」
「必死ね」
ふう、とため息をつく三人。
「これじゃあの子をモデルにしての着せ替え大会が出来なくなっちゃうわ。主婦もね、そうそう暇じゃないのよ」
「なんだ、下りんのかキャスター」
「下りないわよ!」
怒鳴る若奥様――――キャスター。それに肩を竦めるクランの猛犬――――ランサー。
少女、間桐桜は目をぱちくりとさせている。
「いい? 小さくて可愛らしいあの子をフリルとレースとリボンで飾る! それこそがわたしの野望であり、希望よ」
「だから、あいつにはそんなの似合わないって言ってんだろうが」
床に広がるゴスロリチックなカタログを手の甲でぱしぱしと叩いてランサーは言う。それを、きっ、と鋭い視線でキャスターは見やった。
「なによ。じゃあ、あんたはどんな服があの子に似合うと思うわけ?」
「ふん」
ランサーは迫力満点のキャスターの視線を、しかし鼻で笑うだけで無効化してしまう。今度は手近なカタログを手に取ってぱしぱし、と床を叩きながら、
「そりゃ、色気たっぷりのスリットが入ったタイトスカートや胸元が開いたYシャツやらに決まってるだろ?」
「…………」
キャスターは半眼になり。
「はっ」
「なんだその反応」
「これだから男は」
そういうの下半身と脳が直で繋がってるっていうのよ、と皮肉たっぷりに言ってのけたキャスターに、ランサーの赤い瞳が光る。
「誰が脳味噌下半身直結男だって?」
「誰もそこまでは言ってないけれど、自分で気づけたのなら偉いって褒めてあげるわ」
そんなふたりの背景に吼える竜虎。ゴスロリVSキャリア系……今まさに戦いの火蓋が、
「あ、」
切って落とされようとしたところで、不意にキャスターが声を上げた。
思わず前にコケて、ランサーは不満を訴える。
「なんだよ、調子が崩れるじゃねえか」
「お黙りなさい。……ねえ桜さん? あなただったらこの野蛮な男の意見とわたしの意見、どっちに票を入れるかしら?」
「どっちに、ですか……」
こくこくとうなずくキャスター。
それに、桜は。


「服なんてすぐに脱がしてしまうものですから、わたしとしてはどっちでもかまいませんよ?」


「…………」
「…………」
服なんて所詮その場しのぎの包装紙だと、言外に可憐な笑顔で言ってのけた桜にキャスターとランサーは固まる。
「あ、あれ……? どうしたんですか? わたし、変なこと言っちゃいました?」
「いいえ……」
「なんでもねえよ、嬢ちゃん……」
玄関の方でやかましい音がする。
それは、遠坂凛とセイバーが渦中の人物であるアーチャーを捕まえ帰ってきたという事実に他ならなかったが、キャスターとランサーはいまいちテンションを上げていけなかったという。


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