「マスター……っ……」
触れたら声が響く。目の前の顔は真っ赤だ。眼鏡の奥から覗いた瞳は潤んでいる。
胸元を手で撫で回した。びくんびくんと突っ張る足。
「ん、は、」
「アーチャー」
優しい声で名前を呼んで。わざとらしいほどにっこり笑う。アーチャーは切羽詰った目でこっちを見ていた。薄く開いた唇が何か言いたげに震えてる。
「どうしたの?」
本当に、わざとらしく。
「ん、ああ、」
布地の上から手袋をした手で撫で回す。
そうしたらアーチャーはびくびく震えた。地に上げられた魚みたい。
ぞっとする。食べちゃいたい。今すぐ食べちゃいたいけど我慢する。
笑ってさわさわ胸を、首筋を、撫で回すだけだ。
「あ、やあ、……っ……」
普段は低い声が甲高く鳴って、どうしようもないって主張している。
かわいい。
俺のアーチャー。
マイルーム。ふたりだけの場所。鍵をかけたら誰も入ってこれない。
「なん、で、」
「ん?」
「…………っ」
言いたそうなのに言えなくて黙ってしまった。知ってる。こうなるだろうと思ってた。アーチャーがはっきり欲望を口に出来るわけがない。
だからちょっと助け船。
「アーチャーさ」
「んん……っ」
「せっかく俺がその服買ってあげたのに、いつでもこの服を着てるオレは機嫌が悪い! って言うじゃん」
「それ、は、」
「がっかりだなぁ」
眼鏡でおそろいなのに、と笑ってやっぱり胸を撫で回す。すると尖り始めた飾りが手袋越しに硬さを伝えてきた。
反応してる。かわいい。
「違う、それは……っ」
「どう違うの」
「ちがう、ちがう、ちがうんだ……っ」
とうとう泣き出してしまった。ああかわいい。
でも許してあげない。最後まで自分の口で言わせなきゃ。
「アーチャー」
ゆっくりと。
優しく、名前を呼ぶ。
「どうしてほしい?」
アーチャーは。
震えて、押し倒されたベッドの上から俺を見上げて、震える唇で、
「さ、わって」
とうとう欲望を、口にした。
「手袋外して触って、オレの胸触って、直接触ってほしいんだマスター……っ……お願いだから、頼むから、もう我慢させないで……!」
「ん」
よくできました。
もう、こっちもいい加減我慢の限界だった。
「よっ、と」
口で手袋に噛み付くと、もどかしく脱ぎ捨てる。露になったてのひらで、素肌でアーチャーの着てる服を胸元までたくし上げて、ぴんと尖ったそれを。
「んやぁっ、は、あぁ……っ……!」
目を瞑ってびくんびくん戦慄いて、嬉し涙を零すアーチャー。大きく開いた口から上がる声は甲高い。
「はぁっ、ますたぁ、ますたー、そこ、そこきもちいい、すごくいい、もっと、もっと、」
腰を突き上げて鳴くアーチャー。正直敏感すぎると思うんだけど、それを見て満足出来るから構わない。
「はずし、て、」
「ん?」
「めがね、はずし、て、」
「アーチャーの?」
ふるふると首を振る。そして、
「ますたぁの、ますたーのめがねはずして、ちょくせつオレを、みて、」
「…………」
そっか。
見て、ほしいんだ。
「ちょっと待ってて」
片手を胸に置いたまま、目元に手をやる。そしてかけていた黒縁の眼鏡を外して、ベッドの上に置いた。
「これでいい?」
「…………っ」
こくこく頷くアーチャー。だからもっと触ってあげた。
「ぁあみてる、オレをみてる、ますたぁがオレをみてる、ん、もう、だめ……っ……」
そう言って。
アーチャーはびくん、と一度大きく腰を突き上げた。
そしてくったりとベッドに横になる。
「アーチャー?」
はあはあと上下する裸の胸元。見てみればじんわりとスラックスの中心辺りが、色が変わって濡れていた。
「いっちゃった?」
「――――ッ」
答えはない。けれどアーチャーが服を着たまま絶頂に達したのは確かだった。
それを見て笑う。
すごく、アーチャーはかわいかった。


その後でたくさん怒られたけど、反省はしません。だってアーチャーがそれを望んでたんだし。



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