「この荷物ここでいいのか?」
「頼む。……任せてよかったのだろうなランサー」
「立つ鳥跡を濁さずってな、全部きちんと片づけてきたぜ。ここの住所も告知済みだ」
「…………」
「なんだよ」
不満そうな顔をして、というつぶやきに眉間に皺を寄せて複雑そうに返す。いやな、と。
「助かる。大いに助かるのだがな。君がその。元は神代の英雄だと思うと、なんとも」
ひとつまばたき。肩に担いでいた最後の荷物をあくまで丁寧に床に放りだして、
「現代慣れしすぎてるって?」
「うむ」
「別に助かりこそすれ、困るこたねえんだろ。ならいいじゃねえか。便利だなぐらいに思って頼っとけ」
床にパズルのように散らかる荷物を乗り越えて辿りついてきて、おまえは考えすぎだとその頭をいささか乱暴に白い手が撫でる。少しの背伸びで上から押さえつけてわしわしと。
「―――――便利屋扱いは不本意なのでは?」
「歴代マスター様だの他の連中にならともかく、好いた相手に頼られて嬉しくねえわけがねえよ」
「……なるほど」
ん、とにっかり笑った顔がやや変調した。
「それにまあ、なんだ。嬢ちゃんの便利屋っぷりに比べりゃ、オレなんてまだまだ」
「それは言わない約束だろう」
「いや、でもだってよ、金さえ出しゃどうとでもってのは……ある意味最強の魔法だぜ」
なんてったって英霊の戸籍作っちまうんだもんなあ、としみじみ聞こえた声に閉じられるまぶた。
「あ、だけどよ! これ逆手に取りゃ、オレたち正式に結婚とか出来ねえ? 現代の人間ですって判もらってるんだぜ? 違法だけど」
「この国では無理……ではなくだな。そもそも君、したいのかね」
「んや、別に。形だけの証はいらねえよ。おまえがオレを好きでいて、お互いに愛してるってんなら何も問題ねえ」
「…………なら、必要はない。たわけめ」

* ランサー×アーチャー:青と赤の英霊さんたちのお引越し *


「引越し蕎麦は自家製だろ、やっぱり」
「ふむ……衛宮士郎。おまえに同意するのは本意ではないが、私もそれには賛成だ」
「ならどっちにする? つゆと蕎麦と」
「何?」
「まさか両方とか言わないよな。俺にだってプライドがあるんだ。譲れないぞ」
見上げてくるのを見下ろして、首をひねる。
「―――――プライド、か」
「文句があるならはっきり口に出せよ。立場は対等だ」
「……特に何もない。ただ、あえて言うのなら」
「なら?」
琥珀色と鋼色がぶつかった。
「おまえの味と私の味と。それがあっさり融和すると思っているのか、衛宮士郎」
―――――。
「上等だ、させてみせようじゃないかアーチャー」
「ずいぶんと強気に出たな小僧」
「ああ、させてみせるさ。俺とおまえの仲だって、いずれな」
「フン」
しばし間が開く。それからふたりしてがさがさと漁りはじめたのは封書、封書、封書の数々。
「それより先にガス会社、水道会社、電気会社に連絡をしなければならん。おまえとの決着は後だ」
「近くの病院や商店街の下調べだっているぞ。特にスーパーのタイムセールのチェックは大事だ」
「服は夏と冬と分けたのだろうな。防虫剤の入れ忘れなど初歩的なミスを犯してもらっては困る」
「まさか。虫なんてつかせるわけないだろ、色んな意味で」
「意味?」
「別に何でも」
「……無駄に口を動かしている暇があるのなら、手を動かせ。それでなくとも荷物が多いのだからな」
「わかってる!」

* 衛宮士郎×アーチャー:引越し前の主夫さんたちの会話 *



「何故こんなに余計な物が多い!」
「何を抜かすかフェイカー。我の財に余計な物などひとつもないわ。すべてが賞賛に値する原典の数々よ」
「……この山と積まれた玩具は」
「店ごとまとめて箱買いした物のダブりだ」
「……この雑誌の山は」
「○ャンプの十年分のバックナンバーだが」
「……このDVDの山は」
「最近になってまとめ買いした娯楽の類いだな。まあつまらん与太話ばかりで欠伸が出、見るも無駄と思わせる駄作ばかりであったが」
「無駄な物ばかりではないかね!?」
叫ぶ。
まったくだ。
「ああもうこの趣味の悪い変な服はなんだ! 捨てるぞ!」
「待て! それは一点物ぞ! 捨てるなまだ着るのだ!」
「そう言って着ずに何年も箪笥―――――いや、蔵のこやしにするのだろう!」
「この我がまだ着ると言っているのだろうが! ならば貴様は従うのが筋であろうフェイカー!」
「なんでさ!?」
叫ぶ。
本当になんでだ。
ダンボールに詰めても詰めても詰めても終わらない。ゴミを入れられた半透明ビニール袋ばかりが増えていく。
あんりみてっどごみぶくろわーくす。……虚しい。
「……って捨てた端から蔵に入れ直すな! 袋を開けるな! 中を見るな! 雑誌を読み始めるな、それは整理整頓の際にもっともやってはならないことで、」
「煩いぞフェイカー! もうよいわ! このまま新たな城に持っていく故、ままごとはここで終わりだ!」
「ままごとだったのか!?」
「割とな。」

* ギルガメッシュ×アーチャー:おうさまのおひっこし *



「だから言ったのに。セラとリズに全部まかせちゃえばいいって」
「別に彼女たちの手を借りずとも出来ただろう?」
「でも時間がかかったわ。それにほら、手を貸して」
白い手が褐色の手首を掴み半ば無理矢理に引き寄せる。ほら、鈴の鳴るような声。
「がさがさよ。すっかり荒れちゃった」
「……元々、私の手はこんなものだよ。今回の件がどうこうというわけではない」
むっと赤い瞳が鋼色を見上げる。唇を尖らせて。
「口答えしないで。まったく本当にシロウはいつも無茶ばっかりするんだから。回りはいつもはらはらさせられっぱなしよ。頑張るのはいいけど、無茶するのは駄目なんだから」
「イリヤスフィール」
「忘れたの? ふたりきりよ。もう一回チャンスをあげるわね、わたしはだあれ? シロウ」
「…………、ねえさん」
「よく出来ました」
にっこり、と、わらった。
「……やっぱり、セラとリズを遠慮させてよかったかもしれない」
「うん?」
「ふたりがいたら、きっとわたしたちこんなきょうだいみたいなこと出来なかった」
「…………」
「きっと、イリヤスフィールとアーチャー。そんな他人行儀な間柄で、あなたはずっとわたしにシロウって呼ばせないまま上手にあしらってた。それでわたしは上手に甘えてた。でしょう?」
ダンボールの中をがさがさとかき回す音がしばらく。
白い手だけが動いている。褐色の手は、止まっていた。
「ほら、シロウ、手を動かして」
「あ、?」
「まったく。お姉ちゃんが一から十まで世話を焼いてあげないといけないのかしら。これから先が思いやられるわ」
なんてね、と舌を出した。
わらう。ふたりで。
「さあ、早く片づけてお茶にしましょう。疲れちゃった」

* イリヤ×アーチャー:姉弟の、お引越し。 *



「そんな感じで道場もお引越ししましたー!バッドでデッドなエンドもたっくさん用意してプレイヤーの皆をお待ちしてる、ゾ☆」
「いえーいジェノサイドー!」
「まったく求められていない要素を搭載して移転とはなんという無駄骨!?」
「弟子二号! 具体的に言うと弓子ちゃん! ズバリ真実をつかない!」
「陵辱エンドが追加されちゃうぞー!」
「私の?!」
―――――お付き合いありがとうございました。


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