Emiyake. 
「今日も暑いわね! アーチャー!」
「ああ。だから帽子をかぶってくれないか、アイリスフィール。倒れられては私が困る」
夏の陽の下で元気いっぱいといったアイリスフィールにアーチャーが苦笑する。今日は真夏日で、最高気温はなんと三十五度近くらしい。
ちなみに切嗣は縁側でばてている。僕は元々苦手なんだよねこういうの、と言って。
「ねえアーチャー、これ膨らますの手伝ってくれる? わたしじゃとっても無理だわ」
「衛宮士郎に頼めばいいだろうに……まったく」
ビーチボールを受け取って、役に立たぬ男だ、とアーチャーが言えば何だよ、と士郎が返す。そんな士郎はビニールプールを膨らませていた。はっきり言ってそっちの方が重労働である。
「わあー、とっても仲のいいご兄弟ですねー」
「なに言ってるのアンリマユ。あなたも兄弟でしょう」
「え? オレも仲間に入っていいの?」
「誰が駄目だって言ったの?」
きょとん、と見つめあうイリヤとアンリ。
しばらくしてわあい、とアンリはふーふーとビーチボールに息を吹き込んでいるアーチャーの背に向かってダイブした。
「何故私に!?」
「アンタの背中が一番大きくて頼りがいがありそうだからです!」
「キリツグにかまってあげればいいのに。独りで、寂しそうよ?」
「え、あの人はああいうのが好きなんでしょ?」
「好きじゃないよー、ただ暑すぎて外に出れないだけなんだよー」
縁側から切嗣。ぐでんとまるで、波打ち際に打ち揚げられたジュゴンか何かのようだ。
「切嗣ったらすっかりばてちゃって。そんなんじゃこれからもっと暑くなったとき大変よ?」
「いや、これ以上は暑くならないでほしいな……というかならないだろ……?」
希望的観測を切嗣が述べたところで、アンリがしげしげとアーチャーの持っているビーチボールを眺める。ん?とそちらを見やったアーチャーに対して、アンリは、
「ね。それ、ちょっと貸して?」
「何故だね」
「いーから」
「…………」
無言でボールを渡すアーチャー。
アンリはにっこりとそれを受け取って。


ちゅっ。


「…………!」
「…………ッ」
「あらまあ」
「おやおや」


今までアーチャーが口をつけていたところに、軽くくちづけを落としてみせた、のだった。
「何をしているんだ貴様は!」
「え、何って間接キッス」
本当は直にしたいんだけど?とにやにやアンリが言えば、膨らませていたビニールプールを放りだして士郎がその首根っこを掴む。
「あれあれ、もしかしてシロってば怒ってる? トサカに来ちゃってる感じ?」
「いいから。いいからちょっとこっち来い」
「きゃー、説教部屋ですか!? 愛の説教部屋ですか!? いやーん!」
ずるずるずる、と引きずられていくアンリを見つめる四人。
「間接キッスくらい何よ! わたしだって!」
「あらあら駄目よイリヤ、あなたたち姉弟なんだから」
「暑いのに元気だねえ……」
「切嗣、呑気なことを言わないでくれ……」
ずるずるずる。
遠くに引きずられていくアンリを見つめながら、四者それぞれがそれぞれのつぶやきを漏らした、とある夏の日だった。


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