...Caster,Saber,Assassun vs yumiko? 
「一周年ね」
かつかつかつ、と食卓でどんぶり飯をかきこむセイバーの隣でアーチャーはその言葉に不思議そうに顔を上げた。
ちなみに彼女はもう食事を終えている。おかずを一品セイバーに分けてやったくらいだ。キャスターも同じく箸を置き頬に手を当てため息などついている。その美貌はどこか感慨深そうだ。
「一周年?」
「ええ、一周年」
「一体、何の……」
不思議が怪訝に変わる。行儀よく正座をしているアーチャーの聖骸布が立てる衣擦れの音がいやに大きく場に響いた。キャスターはなお頬に手を当てたまま、
「あなたたちがうちに来て、今日で一周年なのよ」
時が止まった。
アーチャーだけの。セイバーは相変わらずかつかつどんぶり飯をかきこんでいるしキャスターはなにやら物思いに耽っている。
「えっちょっ待っ……一周年……一年!? 私たちが!? ここに!? えぇ!?」
「なに言ってるの。あなた何回お色直ししたと思ってるの? 一年の歴史がここにあってよ!」
「―――――unlimited dressy works―――――!?」
「U・D・W! U・D・W!」
やけにテンションの高いアーチャーとキャスター。ガラガラガラと物凄い、キャスターらしからぬ腕力で引っ張りだしてきためちゃかけハンガーにはやたらとレースフリルギャザーフレア的なお洋服がいっぱいかかっていました。百着は軽く越えていたと思います。
無限ですから。
唖然と佇むアーチャーの目の前で、思いだしたのかうっとりとキャスターは遠くを見るような目で手を組んでいる。宗一郎さまメディアは幸せですと言っているが現在の状況で宗一郎さまは一切関係ない。宗一郎さまはフリフリも着ないしゴスロリも着ないしコスプレもしないしビデオにも撮られないしモンスターと戦ったりしないし触手ものもオッケーよ!とか言われたり……指折り数えていてアーチャーはもうひどく悲しくなってしまってうなだれた。
その肩をそっと横から抱かれる。
「……セイバー……?」
いつのまにか、どんぶり飯を食べ終えていたらしいセイバーが立ち上がり、真剣な顔でアーチャーの肩を抱いていた。本当に真剣な顔、だった。口元に飯粒がついていたが。
見た目は小柄な少女同士。しかも片方は瞳を潤ませている。どことなく危うい雰囲気が漂う。
百合の香りとかアンリマユが見てるとかあなたがわたしのスールか?とかそんな感じだ。最後は実際口にしてみると語呂が悪い。
すかさずキャスターが反応してデジカメをかまえていたがふたりともかまわない。アーチャーが見ている前で、セイバーがその唇を。
「もうここの子になりましょう!」
「なに言ってんのさ!?」
口調が素になった。飯粒口元につけてなにを真剣な顔で言いだすと思ったらこの剣士のサーヴァントは。
「ごはんとかいっぱい食べられますし……アーチャーのおいろけシーンとか」
「ごはんはまあいい! 予想範囲内だがセイバー、おいろけはない! おいろけはないな! 訂正しよう!」
「これがわたしの騎士道です!」
「それで何でも通ると思わないでもらおうか!」
「道は通せば通るものです!」
むしろ駆け抜けていった後が道になるんです、と何だかいいことをいったようなセイバーだったが、全然いいことは言っていなかった。押し通る!だった。
どこかの英雄王のくしゃみが聞こえたような気がする。
それはいい、もうこれ以上のカオスはいらない。アーチャーはセイバーに抱かれたまま(筋力DでBに敵う通りはない)こぶしを握る。
「一年も敵地にいたとは……マスターに合わせる顔がない! というか聖杯戦争は……ッ」
「そんなこともありましたね」
「あったわねえ」
「遠い過去の蜃気楼!?」
「懐かしいです」
「懐かしいわねえ」
「流そうとするなそこふたり!」
私の念願はどうなる!と叫ぶアーチャーに階段の下方から笑う声が聞こえる。
雅ながら雅でないその声は嫌というほど聞き慣れた。
「アサシン……!」
「いや、はは。これは悪いことをした。しかしあまりにも面妖な会話だったので、つい、な」
山門よりやや下方の石段に腰かけ、首だけで後ろを振り返りその端正な顔に涼やかな笑みを浮かべている和装の男―――――アサシンを、アーチャーは睨みつける。
そうなのだ。
実は、この四人ずっと外にいるのだ。
さすがに寝るときなどはこっそりキャスターが開いている部屋にセイバーとアーチャーを押しこめるが、食事などは山門前。
語らい、趣味……キャスターの……の時間なども山門前で。
何かと都合がいいのだ。山門前は。アーチャー、以外にとっては。
「そう怖い顔をするな、弓兵。華のような美貌を自ら鬼女のごとく歪めることもあるまい。月も泣いて雲に隠れようぞ」
「君は直接の被害はないが……こう、遠回しに気に障るな……!」
「そこの魔女の手下ゆえ、似たのかもしれん。難儀なことだ」
「アサシン、血を吐きたいの?」
「いやいやまさか」
あっはっはっ、とやたらいい声で笑うアサシン。アーチャーに睨まれ、キャスターに恫喝されても彼にまったく怯む様子はない。
この男かなりの大物である。
「キャスター、どうせ女性に変えるのなら彼の方がよかったのではないかね? 顔立ちもよく髪もちょうど長く艶やかではないか。ひとつにくくり、なかなかに愛らしい。和装美少女となっただろうよ」
「こいつ、あんまりいじり甲斐がなくて面白くないのよね」
「そうでしょう」
「まあ、そうであろうな」
「……待て。それは婉曲的に私が」
「わたし可愛い上にいじって楽しい娘が好みなのよ、その点あなた合格! メディアはなまるあげちゃう!」
「いらんわたわけ!」
アーチャーは怒鳴り声を上げると聖骸布の裾をさばいて石段に座りこむ。そしてそのまま膝を抱えた。
だれかたすけにきて。
だれでもいいからもうほんとに。
「アーチャー、あなたにはわたしがいますよ」
セイバーが押さえてはいるが弾んだ声と共に肩を抱いてくる。キャスターの歓声とデジカメのフラッシュ。アサシンが喉を鳴らす。

もうやだ。
アーチャーは退行した思考でがりがり自分が磨耗していくのを感じ取っていた。


back