「彼は僕のものなんだよ」
「いや、オレのもんだね」


「…………」


どうして、こんなことになったのだろう?
アーチャーである英霊エミヤの目の前では、金髪の青年と青い髪の男が何やら言い争いの真っ最中。しかも議題は自分と来た。
金髪の青年――――真名アーサーであるところのセイバー。
青い髪の男――――真名クー・フーリンであるところのランサー。彼らがいる世界は並行世界らしく、アーチャーは突然そこに放りだされてしまったのだった。
隣では黒髪のボブカットに眼鏡、制服姿といった可愛らしい少女がむっつりとした顔で立っている。彼女の名前は沙条綾香、セイバーのマスターらしい。
「……ごめんね。何だか、すごい変なことになってて」
「あ……ああ、いや、うん……」
ああ頭痛い、と額を押さえる綾香だったがそれにはアーチャーも同意だった。セイバーのサーヴァントが男になって、しかも一人称が「僕」と来たところには脳内に衝撃が走るほどのショックだった。
しかもそのセイバーに、自分が求愛されているだなんて。
「ねえアーチャー、君は僕のものだよね? この野犬に言ってやってくれないか、そうすれば彼もきっと」
「おい、さりげなく失礼なこと言ってるんじゃねえぞこの坊ちゃん野郎が」
バチバチバチバチ。
すごい、火花が、飛んでる音が、しますよ?
「ちょっとやめなさいよふたりとも! 男ふたりがそろってみっともない!」
「だって綾香、愛する者を手に入れるためにはどんな手段を使っても、だろう? そのためには多少の暴言も仕方がないさ」
「何が多少の暴言だ、この歩く毒吐き男が」
「……チンピラ」
「……似非王子」
バチバチバチバチ!
「だからちょっとやめなさいって言ってるでしょ! あんたたちそろって人の言うこと聞けないの!?」
綾香さん、本性出かけております。
日頃はおとなしげな彼女なのですが実はなかなかの猛者であり――――。
「なあアーチャー」
「え?」
「そうだな、アーチャー」
「は?」
「「どっち!?」」
「なんでさ!?」
ていうかなんで争奪戦!しかも自分が悪い、みたいな話になっているのかっ。
愛されるということにまったく慣れていない、というか大変苦手なエミヤさんにとっては今の状況は針のむしろ。剣山にぐっさりと刺された可憐なお花ちゃんことローアイアスである。
誰か助けて助けてヘルプヘルプ、な状態であって。
「もちろん僕を選んでくれるよねアーチャー? いや……エミヤ?」
「う」
「いや、もちろんオレだよな? こんなとっちゃん坊やより余程オレの方が頼れるってもんだ」
「王である僕になんてことを言うのかなあ、君は?」
「真実じゃねえか」
にっこり。
ふたりはそろって笑いあってから。
「エクス――――」
「ゲイ――――」
「だからやめなさいって言ってるでしょ!?」
パァン!
スパァン!
その場に、誠に爽快な打撃音が響き渡って。
「あ……綾香……」
「……アンタ……なかなかやるじゃねえか……」
はー、はー、はー。
「き……君……」
「……天罰よ」
ハリセンを手に持ち、肩をいからせ荒い息をつくその様に。
かつての己のマスターを思いだす、アーチャーなのだった。


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